一審敗訴でも田中さんが得たものとは
昨年10月のさいたま地裁判決は、田中さんの敗訴に終わった。判決は、「教員の業務は自発的に行うものが多く、一般労働者と同じような労働時間の管理はなじまない」とし、教職調整額を支払う代わりに残業代を払わない給特法の制度を是認した。
──地裁判決をどう読みましたか?
「不当判決だと思いました。実際には、先生たちの業務は校長が開催する職員会議によって決められています。先ほど話題にした若い先生たちは、おおざっぱに言えば、1日14時間労働のうち、自発的な業務に費やしているのは2時間くらいなものです。1日12時間働かせておいて残業代が出ないなんて、非常識です」
──地裁判決は給特法を肯定しつつも、最後に「付言」をつけたことでも話題になりました。
《わが国の教育現場の実情としては、多くの教員が一定の時間外勤務に従事せざるを得ない状況にある。給料月額4%の割合による教職調整額の支給を定めた給特法は、もはや教育現場の実情に適合していないのではないかとの思いを抱かざるを得ない》。この付言についてはどう思いましたか?
「付言はあくまで『付け加え』にすぎません。本当に実情に合っていないと考えるなら、裁判で勝たせてくれないと」
──では、一審判決は残念な結果だったんですね?
「でも、裁判を始めたことに後悔は全くありません。裁判を通じて自分の考えを世の中に伝えることができました。ぼくのような普通の先生が、こうやって取材を受けたり、大学の先生と話をしたり。Twitterのフォロワーは1万人を超えました。『学校の先生は自由に発言していい』というメッセージを伝えることができています」