先生が自由になれば、子どもは変わる?
──先生が自由になると子どもたちも変わりますか?
「もちろん。ぼくは、校長から“田中さんのクラスはうるさい”とよく言われてきました。たしかに4月のころはガヤガヤしています。ぼくのクラスが最初うるさいのは、子どもたちに、ある程度の自由を認めているからです。ぼくは理由があれば授業中に立ち歩いてもオーケーとしています。“ランドセルから筆箱をとっていいですか?”と聞く子がいます。ぼくは“許可はとらなくていいよ。ランドセルを開けてれば君が何をしたいのかは分かるよ”と伝えます。ぼくが管理するのではなく、子どもに考えさせます」
──そうすると、静かになりますか?
「最初はうるさいですが、だんだん子ども自身が考えて、『今は静かに着席するべきだな』と気づきます。4月に子どもたちがぴったり着席しているクラスは、先生にそう指導されているだけです。1年が終わりに近づき、3月になって着席するようになったクラスは、なぜ座るべきか子ども自身が分かっています。その差は大きいです」
──子どもを信用するということでしょうか?
「自由にさせておくと、子どもからぼくが学ぶことも多いです。例えば、授業中でも理由があれば立ち歩きオーケーにしておくと、学習内容を理解している子が分からない子のところに行って教え始めます。普段は乱暴でケンカっ早い子が、少し発育が遅れている子をかわいがったり、世話を焼いたりします」
──子どものいい面が出るのでしょうか?
「そうかもしれません。ただ、子どもの自主性が尊重されている結果ガヤガヤしているクラスと、学級崩壊でガヤガヤしているクラスと、簡単には区別がつきません。自由にさせようとして学級崩壊に陥ってしまうこともあります。先生のほうが経験を積み、学んでいかないと、子どもを自由にさせるのは難しいです」
──ふむふむ。
「そう。先生の仕事は難しいんですよ。よく“先生の仕事は大変だ”と言われます。そうじゃない。『難しい』仕事なんです。だからこそ、まずは労働時間を短くして、『文化』に触れる必要があります。先生の文化レベルが上がれば、いい授業、いい学校が増えると思います」
先生の仕事は8時間労働にできるのか?
──いま、先生たちは10時間以上も働いているのですよね? そんな長時間労働なのに、1日8時間労働をめざせるのでしょうか?
「余計な仕事が多すぎます。先生の仕事でいちばん大切なのは、やっぱり授業です。小学校なら1日に4、5時間の授業があります。1時間1時間の授業を大切にすれば、子どもは育ちます。それだけでいい。それなのに、校長や教育委員会は授業計画書や指導案を作らせます。どっちにしろ自分の頭の中では授業の計画を立てます。書類づくりの時間は無駄です」
──学校が先生を管理しようとしている、ということでしょうか?
「若い先生たちの可能性や力を信用していないのではないかと思います」