ぜんぶ受けてもらえる安心感

 特にあざやかな印象を残したのは、2021年公開の映画『街の上で』(今泉力哉監督)。

 下北沢の街を舞台にした群像劇で、主人公は古着屋で働く青年・荒川青(若葉竜也)。ふとしたきっかけから自主制作映画に出演することになり、制作スタッフのひとり・城定イハ(中田青渚)と出会う。

──『街の上で』は作品そのものも素晴らしいのですが、映画の中盤から中田さん演じるイハが登場してさらにギアが上がります。

「ありがとうございます」

(c)「街の上で」フィルムパートナーズ

──その日初めて会った男女が、飲み会からの流れでお互いの恋バナを打ち明け合う展開になりますが、ふたりの心理的な距離が縮まるにつれて、セリフの関西弁が全開になりますね。

最初の台本は普通に標準語で書かれていたんですが、私が兵庫県出身というのもあって関西弁のほうがなじみがいいんじゃないかということになって、関西弁で読んでみるとハマったんですね。“じゃ、関西弁で” ということになりました

──2人がイハの部屋で話すシーンが、10分以上にわたってノーカットの長回しで撮影されています。ちょっとしたセリフの間合いとか、照れたような笑いとか本当に自然で、まさにリアルにその場に存在しているように見えます。どうしたらあんな演技ができるんでしょう?

あれは本番の1回しか撮っていないんです。セリフは基本的には台本の通りでアドリブとかはないんですが、若葉(竜也)さんがぜんぶ受けてくださる方なので。

 私は本当にポーンと、どこにでも(球を)投げてるじゃないですけど、どうセリフを投げても、どう芝居をしても返してくれるという安心感があって、自由にさせてもらえたんだなぁ、というのがあります

──あの2人の長回しのシーンは、何度見ても “今日はこの人と出会えてよかったな”という幸せな気持ちになります。

「いつ見てもいい作品だと思います」

 深夜ドラマの『初情事まであと1時間』(2021年放送)も印象深い。

 毎回1組の男女が初めて結ばれるまでの直前1時間を描く恋愛オムニバスドラマだが、第4話『姉と妹』に限ってはヒロインが2人。妹(中田)が姉(青山美郷)の彼氏(望月歩)を誘惑するようなハラハラさせる展開も。

(c)「初情事まであと1時間」製作委員会

──『初情事〜』はかなり異色の回でした。

「そうですよね。ちょっと不思議な撮影でした。ずっとモワモワしているというか、熱い感じがするというか(笑)。

 これまで、ああいう役が多かったかもしれません。なんかちょっかい出す、じゃないですけど。そういうのを見てくださった方からすると、今回の『善人長屋』はだいぶ印象が変わるんじゃないかなぁと思います

──『初情事〜』のラストで男性が待つ部屋に入る女性の脚が、姉と妹どちらなのか、見ている人によって解釈が分かれるような不思議な終わり方で……。

わかんないですもよね、最後(ドアが)開くときの脚は。カメラも後ろから撮っていて、どちらかわからないようになってます。

 自分たちが見てたら “ああ、◯◯◯の脚だ”ってなるんですけど、ほかの人からしたらどっちなんだろうって(笑)

──今、お仕事以外ですごく充実している、生きてるなぁと感じる時間は?

いっぱい寝てる時です(笑)。アラームをかけずにベッドに入る時とか。私、本当に寝るのが好きで。次の日に予定があると絶対にアラームをかけて寝なくちゃいけないんですけど、休みだったらもう目覚めればいいから。

 時間をぜいたくに使って自分が目覚めた時間に起きるというのが、いちばん“生きてるなぁ”って感じがします

(取材・文/川合文哉)

《作品情報》
BS時代劇『善人長屋』
2022年7月8日(金)スタート 
毎週金曜よる8時 NHK BSプレミアム・BS4K
原作/西條奈加 脚本/森下直
出演/中田青渚 溝端淳平 高島礼子 吉田鋼太郎 ほか

写真提供:NHK
写真提供:NHK

《PROFILE》
中田青渚(なかた・せいな)
2000年1月6日生まれ。兵庫県出身。身長165cm。
「第5回Sho-comiプリンセスオーディション2014」でグランプリを獲得しデビュー。ドラマ『中学聖日記』『すぐ死ぬんだから』『ここは今から倫理です。』などに出演。2021年に公開された映画『街の上で』『あの頃。』『うみべの女の子』の演技で第43回ヨコハマ映画祭の最優秀新人賞を受賞。BS時代劇『善人長屋』で連続ドラマ初主演!

撮影/廣瀬靖士
​スタイリスト/有本祐輔(7回の裏) リング(TAKE-UP)シューズ(JELLY BEANS)その他スタイリスト私物
ヘアメイク/石田絵里子