──徹底した役の掘り下げをされることで知られる内野さん。新しい役をつくるときに心がけていること、常に大事にされていることはあるのでしょうか?

僕は熟成させたもののほうが、お料理でもなんでも美味しいと思うんです。化学調味料でもうまみは出せるでしょうけど、やっぱり熟成させたもののほうが、芳醇(ほうじゅん)な広がりがあるじゃないですか。そういうものが演技の中にあったらいいなという思いはあります。きらびやかな味よりも、時間をかけて熟成させた味を演技でも提供できるならば、みたいな志はどこかにありますね。だから、分かりやすく口当たりがいい演技ばかりしていてはいかんと。僕の背負っている空気からとか、僕の毛穴からとか、そんな表現をしたいなっていう……まあ志のレベルですけどね

──観客がそれぞれの感じ方で受け取れるような演技をしたいと?

「そうですね。そういう余白を残したいというか。そんな野望はありますね」

「僕の背負っている空気からとか、僕の毛穴からとか、そんな表現をしたいなっていう……」内野聖陽さん 撮影/山田智絵

──相手役のソン・リリンを演じる岡本圭人さんの印象は?

今作で舞台はまだ2度目ですから、ほんとに初々しくて。一番驚いたのは、彼は海外の学校で演劇の英才教育を受けている、すごい演劇オタクというか。演劇に対して向上心が強い。難しい役だけれど、彼のガッツと探求心があれば頑張れると期待しています

──岡本さんに何かアドバイスをされたりすることもあるのですか?

「役の話とかは、役者同士ってあまりしないものなんですよね。でも、役にかける気持ちはひしひしと伝わってきます。とても感性豊かだしいろいろ勉強をしていますしね。ただ、ちょっと考えすぎるところもあるので、そこは少し心配になるときもありますけど(笑)。でも、今回、圭人くんのような若い人と向き合うことで、教えられることもあると思うんですね。初心の頃にあった感受性とか、キャリアがあることで失ったものを教えられる瞬間があるはずなので楽しみですね

──演出の日澤雄介さんとは初タッグですが、どんなことを期待されていますか?

「内野さんをいじめれば、もっと何か出てくるんじゃないか、っていう追い込み方を稽古場でされそうだなと(笑)。実は、日澤さんに最初の頃、言われたんです。僕はどちらかというとオス文化のほうが強めの人間ではあったりするけれども、“それはもしかしたら内野さんの鎧(よろい)であって。内野さんを見ていると、すごく弱くて繊細なところも絶対に持っているように見える。その鎧をバキって割ったら、きっと面白いものが出てくるはずだ”って。“当たり!”って思いましたけど(笑)。今回は受難の役なので、大いにいじめられたいと思っています」