よく見ると、グレちゃんの足が少し曲がっている?
「わあ、いやだ、いやだ。2階はサハラ砂漠だわ。グレちゃんも大変ね」とシベリア大陸への反撃が来た。この母はどこまでも強い。でも、このくらい強くないと90代まで生きられないのかもしれない。
あれ? 2階の暑さを知っているというのは、もしかして、母はわたしの留守中に、2階に上がることがあるのか。母には家賃を払っているのに、わたしの部屋に無断で上がるとは。だから嫌なのだ。親子というのは土足で入り込んでくるから嫌なのだ。ああ、やっぱりわたしは完全にこの家を出て行くべきかもしれない。
そんなマミーの葛藤に関係なく、どんなに暑くてもグレちゃんは涼しい顔で窓辺に座り、外を優雅に眺めている。暑いからと文句をいうこともなく、心はいつも平常心だ。ああ、わたしも少しは、猫を見習わないといけないようだ。
毎日見ているので目が慣れてしまっていたが、グレちゃんの足が少し曲がっているように感じた。前足の間が少し空いている。まだお婆さんという年齢ではないのにおかしいと思い、年を数えてみたら、10歳をとうに過ぎていることに気づきはっとした。
猫の一生は短い。平均寿命は13歳から15歳くらいと言われている。先代のメッちゃんが20歳まで生きたので、グレちゃんもまだまだ生きると勝手に思い込んでいたわたしはどうかしている。自分のことでバタバタしているうちに、グレちゃんが平均寿命に近づいていたのを、気づかなかったのだから。なんだか、毛のつやもなくなってきたような気がする。
*第11回に続きます。