テクノロジー・トレンドともに進化するからこそ"新鮮さ"が失われない

──人間食べ食べカエルさんが「慣れない」ことも重要ですが、同時に、作品自体も常に刷新され続けていますよね。これも魅力を感じ続けられる理由の1つなのかな、と。

「そうですね。ホラー映画って、現実世界の“テクノロジーの進化”や“トレンドの変化”によって、次々に新しい作品が出てきています。

 例えば、コロナ禍でリモートワークが増えてきた2020年には『ズーム/見えない参加者』という作品で、リモート会議ツールの画面を使った『Zoomホラー』というジャンルができました。

 この作品の監督がロブ・サヴェッジという方なんですけど、彼は『Dashcam』(原題)という作品で車載カメラを用いています。これも革新的でしたね。実際の生活に近い視点を描けるので、よりリアリティをもって情景を描写できるんです」

──なるほど。現実のテクノロジーに合わせて進化しているんですね。

「そうです。実は、ちょっと前は『Skypeホラー』ってのもありましたね。テクノロジーはもちろんですが、『社会的なトレンド』が反映されやすいのもホラー映画の特徴だと思います。

 その点でいうと、2022年7月1日から上映中の台湾映画『哭悲/THE SADNESS』は、今年見たなかだとトップクラスに面白かった。明らかにコロナ後のことを描いているんですよね。風邪っぽい症状の病気が流行(はや)る。でも落ち着いてきたから、みんなマスクを取って生活するようになる。すると、そのタイミングでウイルスが突然変異し、人の脳に作用して“とにかく残酷なことをしたい”と思う欲求だけを全開にさせるという」

──うわ、怖っ……。コロナ後のことなんて誰も想像つかないから、なんだか「もしかしたらありえるかも」と思えてきます。

「マジで“なんて嫌な設定を思いつくんだ”って感じですよね(笑)。こういう“世間のトレンドを過剰に演出してエンタメにする”っていうのも、ホラー映画ならではの面白い部分だと思いますね

──なるほど。

「さらに、社会的な要素に加えて『映像表現のアイデア』も進化しまくっています。

 例えば、最近でいうと『ナイト・ハウス』という作品では、トリック・アートで怪異を表現していました。これは斬新でした。

 ホラーって、“驚かせる”とか“怖がらせる”ことに力を注いでいる。すると“王道パターン”が完成されてきて、視聴者も“どうせこのパターンでしょ”と、先の想像がついてしまうこともあります。だから制作者側はアイデアで想像を超えるシーンを作らないといけないんですよね。

 その結果、ホラー映画って、ほかのジャンルよりも斬新な映像表現を突き詰めていると思うんですよ。見ている側としては“次はどういうものを見せてくれるんだろう”っていう気持ちを持ち続けていられるし、私のなかでも大きな楽しみ方になっています。

 たとえ低予算だとしても、アイデアで想像を超えてくる作品を見ると、ものすごく興奮しますね

──面白いです。例えば「振り返ったら化け物がいる」というベタなパターンでも、今は「いない」っていう“スカし”のほうが多いですもんね(笑)。

「ですね。今、一発目に振り返ってマジで化け物がいたら、逆に新鮮で怖いですよ(笑)」

──(笑)。もしかしたら5年後とか、一周まわって「振り返ったら“いる”パターン」が流行っているかも。

「こういう“出尽くしたパターンを逆手にとる”っていうサイクルを繰り返していったら、斬新な表現が無限にできますね。“怖がらせるパターンのトレンド”が常に移り変わるから、ずっと新鮮さを感じられる。だからハマり続けているのかな、って思います。本当に、見れば見るほど奥が深いジャンルですね。ホラーは」