コロナ禍でも忘れないモットーは「つなげる伝統 ちむぐくる(真心)を込めて」

 強い意志と新たな決意で、琉球菓子のブランド力アップに奮闘する村吉さんでしたが、コロナ禍の影響もダイレクトに受けます。

「シーミー(清明節)や旧盆など、沖縄の年中行事も簡素化する流れになりました。それに伴い、こんぺんをはじめとした琉球菓子の売り上げがガクンと落ちていきました」

 心の中で「このままでは、先祖代々続く店を自分の代でつぶしてしまう」という危機感を抱くこともあったようですが、不安に打ち勝つのが村吉さん。ある行動に出ます。

「店舗のリフォームを計画しました。南島製菓を愛してくださるみなさまを大切にするのはもちろんですが、なじみのない方でも入りたくなるお店にできないか、と考えました」

 資金もない、売り上げ不調の中、リフォーム費用の工面はどうやって!? と思ってしまいましたが、意外なことにコロナ禍がきっかけを与えてくれたそうです。

「事業を再構築するコロナ禍の補助金を活用してみては」というアドバイスをもとに、銀行への手続きを進めます。ですが残念ながら条件に届かず、実現には至りませんでした。

「ただ、リフォームに向けて気持ちが高ぶっていたので何とかしたいと思い、ダメ元で金融公庫(※沖縄振興開発金融公庫)さんに相談しました。対面が難しかったので、どんな店舗にしたいのかなどを、まずは手紙で伝えることに。便せん3枚に思いをつづり、相談を重ねるうちに認めてもらえたんですよ」

 先祖から継いだ歴史ある菓子店を続けていきたい、という村吉さんの熱意は、国の機関である金融公庫にも好意的に映ったようです。その手紙のおかげで、リフォーム費用の借り入れがかなうことに。熱い気持ちを原動力に、さまざまなことを動かしていくエピソードが、またひとつ増えました。

 店舗は'21年10月に施工を始め、'22年2月17日にリニューアルオープン。沖縄の伝統的な染物「紅型(びんがた)」の大きな暖簾(のれん)を店頭に掲げ、しっくい壁で囲んだ落ち着いた内装です。築50年の昔ながらの雰囲気から、スタイリッシュに生まれ変わりました。

モダンでクールに生まれ変わった店内。色とりどりのお菓子をシーサーも見守ります

「リフォーム後はとてもいい流れになっています。売り上げが好調で、過去最大の注文も入りました。こんぺんが『那覇市長賞100周年特別賞』を受賞するうれしい知らせもありました」と笑顔を見せた村吉さん。

 これまでは店の前を通りすぎていたと思われる若い層や男性客を取り組むことにも成功し、着実に業績を伸ばしています。

「コロナがはやり始めた2年前に、様子見のつもりで3日間、閉店しましたが、その後は店を開け、リフォーム中も休むことなく営業しました。取引先、そしてお客さまとのコミュニケーションは信用につながりますので、一日たりとも穴を開けたくありません。その体制も、現在のいい状況につながっていると感じています」

コロナ禍でも前を向く村吉さん。そのブレない姿勢を見習いたいものです

 不屈の精神で数々の壁を乗り越え、経営を上向きにしている村吉さん。修業時代から20年間、家業である老舗菓子店に身をささげていますが、そのモチベーションはどこから湧き出ているのでしょうか。

「<元祖>こんぺんを残すこと。単純な理由ですが、南島製菓が続けていかなければならないという使命感を持っているんです」と、目を輝かせます。

  温故知新の心で、脈々と受け継がれる琉球のアイデンティティを形にする村吉さんは、出会う人に「ちむぐくる(真心)」で接しながら、老舗菓子店の4代目として快進撃を続けます。

(取材・文/饒波貴子、執筆協力/Shotaro)

南島製菓(なんとうせいか)
所在地:沖縄県那覇市那覇市松尾2-11-28 浮島通り
電話:098-863-3717
営業時間:月〜土9時〜18時/日10時〜17時
定休日:正月(1月1日〜3日)
駐車場:なし
南島製菓URL:https://www.nantou-seika.com
Instagram:@nantouseika.1935