私たちは毎日のようにスマホやパソコンを使い、当たり前のようにさまざまなウェブサイトを目にしています。使いやすいサイト、見やすいサイト、洗練された動画や画像、幻想的なグラフィックを使ったおしゃれなサイト……、このようなサイトを制作しているのがWebディレクターというスペシャリストです。でも、Webディレクターって、どんなことをするお仕事なのか、ご存じですか?
あなたのお気に入りのサイトは、どのようなプロセスを経て作られているのでしょう? 知っていそうで実はよく知らないお仕事のこと、“フムフムハローワーク”がご案内します。第1弾(全4回)はタグチマリコ(田口万里子)さんにご登場いただき、Webディレクターというお仕事について教えていただきます。
クライアントの意向を聞きながら、デザイナーとエンジニアを動かす
──ウェブサイトを制作する際のプロセスを教えてください。
「どのようなウェブサイトを作りたいのか、クライアントの要望を聞き、予算を決めて契約に至ったら実際の制作に入るわけですが、このとき、Webディレクターはデザイナー、エンジニアといったスペシャリストと制作チームを組みます。
デザイナーというのは、サイトを開いたとき、目的に添った全体の情報レイアウトやグラフィックをデザインするビジュアルのスペシャリストです。エンジニアは、デザイナーの設計をブラウザ上で適切に表現するためのソースコードを書くスペシャリストです」
──ソースコードというのは……?
「たとえば、Googleのトップページにマウスを置いて、右クリックをしてみてください。そうすると、“ページのソースを表示”というメニューが出てきます。そこに書かれているのが“ソースコード”です。もしくは、ブラウザ(Google Chromeの場合)のウィンドウで右上の3つの点をクリックして、“その他のツール”の中にある“ディベロッパーツール”を開いてもらっても見ることができます」
スマホもそうですが、ここをタップしたらフワッとアニメーションが流れて画像が表示されるとか、ここをタップしたらページが切り替わるという仕様は、全部ソースコードが指示を出しているんです」
──私たちは当たり前のようにパソコンやスマホを使っていますが、使い方は全部コード化されているわけですね。それらのコードを全部打ち込んでいくのだから、エンジニアというのは根気のいる仕事ですね。
「ですよね。コードの打ち間違いがあると機能しないので、ミスのないようにコツコツと作業して、それでもエラーが出てしまったら、解決策を見つけてエラーの原因と思われるところを1つずつつぶしていく地道な仕事です。
デザイナーがものすごく素敵なデザインを描いてくれても、それをソースコードにできなければ誰もそのデザインを見ることはできないんです。そういった意味では、デザイナーさんあってのエンジニアだし、エンジニアさんがいてこそのデザイナーでもあるわけですから、お互いの仕事を思いやって仕事に取り組む姿勢は欠かせません。
だから、Webディレクターの仕事は、表ではクライアントの要望を聞いたり予算などの折衝をしつつ、後ろではクライアントが求めているデザイン、機能を有したウェブサイトを具現化するためにデザイナーとエンジニアに適切な指示を出し、コミュニケーションを促すことなんです」
クライアントを満足させる制作物ができなければクリエーターとしては屈辱
──よほど信頼できるデザイナーやエンジニアとチームを組まないと仕事がうまくまわっていかないような気もします。中にはマリコさんが求めているだけのレベルに到達していないデザイナーやエンジニアもいるわけでしょう?
「デザイナー、エンジニアの力量を把握するのもWebディレクターの役割の1つです。クライアントのオーダーを聞きながら、私が抱えているデザイナー、エンジニアの中で誰を起用するのがベストだろう、誰と組めばクライアントが納得できるウェブサイト、満足していただけるウェブサイトができるだろうという考えが頭の中をぐるぐるまわっています。
プロジェクトによっては、あの人を使いたいなと思ってもメンバーを選ばないこともあるし、予算を度外視することもできませんが、私はどんな条件下でも、常に“いいものを作りたい”“作るんだ”という気持ちで仕事をしています。納品したとき、期待したほどの仕上がりではなかったと思われたらクリエーターとしては屈辱ですから。
だから、デザイナーにもエンジニアにもそれなりのスキルがないと困りますが、私は“エンジニアはこうあるべきだ”とか、“デザイナーはこうでなければならない”とは考えないようにしているんです。スキルを求めるよりも、彼らが持っているポテンシャル(潜在能力)をいかに引き出すか、引き出せるかのほうがWebディレクターとしての腕の見せどころなんじゃないかって思うんですよね。
デザイナーさんにもさまざまなタイプがあって、クライアントの意向や希望を大雑把に伝えただけで、「ああなるほど、こんな感じのデザインを好むクライアントなのかな」と言ってパターンAからCくらいまでのラフ案をさっと描いてくれるデザイナーもいれば、クライアントの意向を事細かに説明しなければならないデザイナーもいます。熟考するので時間はかかりますが、おもむろに「こうですか」と私が求めているデザインをずばりと描いてくれるデザイナーもいるから、どちらもすごいと思います。
エンジニアにも、ある程度デザインができていないとコードを書けないという人もいれば、決まっている仕様を伝えただけでよしなに進めてくれる人、ソースコードの構成を考えるのにものすごく時間をかける人もいます。複数人の分業体制を敷くので、それぞれの得意分野で力を発揮してもらいますが、納期がある仕事なので、時間配分をしっかり管理しないといけないですね」
──いい仕事をするのに腰が重いというか、なかなか仕事に取りかからない人もいますか?
「いるんです、それが。そういう人のお尻をたたくのも大事な仕事です(笑)。納期限のことはいつも頭の片隅にあって、3か月後の納品なら制作過程をどのように配分すればいいか、遅れが出たらどの過程で挽回すればいいかを考えています。でも、納期に間に合ったからOKというわけじゃありません。大事なのはやっぱりクライアントのビジネスに貢献できるクオリティを担保することです」
──納期を守りながら質の高いサイトを制作するって、なかなか大変ですね。
「制作物の品質の担保や進行管理もWebディレクターの仕事です。1人の遅れがチーム全体の業務を停滞させてしまうこともあるので、遅れがちな人はせっつくんですが、ただスケジュールを管理すればいいだけではありません。気持ちよく仕事して本領を発揮してもらうことがいちばんなので、仕事をしやすい環境、空気作りまでマネジメントに気を遣うんですよ、Webディレクターって」
Webディレクターはウェブ制作をする際のリーダー的存在であることがわかりました。次回はWebディレクターになるにはどのような勉強や資格を取得すればいいのか、また、どのような人がWebディレクターに向いているか等を聞いていきます。
◎第3回:【Webディレクター#3】資格を取得したからといって優秀なディレクターになれるわけではない(8月13日18時公開予定)
(取材・文/降旗学)