フムフムな発見12:駆除しなくてもいいゴキブリがいる

──有吉さんは研究用のさまざまな虫の飼育を担当されているわけですが、どのような苦労がありますか?

生物飼育室では、ゴキブリの他に100種類以上の虫を飼育しています。最初はおっかなびっくりでしたけど、もう20年もやっているのですっかり慣れました。研究棟には“虫がいる”という前提があるので気にならないんですが、不思議なもので、自宅でゴキブリが出たりするといまだにビックリしちゃうんですよね

──飼育をしていると、ゴキブリに愛着が湧いたりするんですか?

ここではネズミみたいにチュウチュウ鳴く変わったゴキブリや、ペットとして飼われるゴキブリなども飼育しています。クロゴキブリやチャバネゴキブリは繁殖力が強く、食欲旺盛でなんでも食べますが、変わり種のゴキブリは繁殖が難しいんです。

 今ではブリーダー飼育(繁殖用に育てること)の方法もわかりましたけど、熟す前の青いバナナのような色をしたグリーンバナナローチや、テントウムシみたいに丸くて、羽の部分に白い“?マーク”のような模様のついたクエスチョンマークローチという種類のゴキブリを繁殖させるのは難しかったですね。

 クロゴキブリなら産卵から40~50日もすれば幼虫が出てきます。でもクエスチョンマークローチは孵化(ふか)するまでに数か月もかかるんですよ。当時は資料もなかったので成虫を死なせてしまったり、本当に卵鞘(らんしょう)がかえるのかなと心配しながら飼育していました。

 育てるのが難しい虫のブリーダー飼育ができたら喜びを感じます。そういった意味では、愛着が湧くと言っていいのかもしれません」

──有吉さんも、社内では“本当は虫が苦手派”ですか?

「はい。わたしも虫が大嫌いで、虫の飼育を担当するまでは虫という虫を受け付けませんでした。でも、虫の飼育をするようになってからは、ムカデのように毒を持っていたり、ゴキブリのように食中毒の原因になったりするなど、何らかの害があるから注意しなければならない虫と、放っておいてもいい虫の区別ができるようになりました。

 日本にはゴキブリが63種類いますが、家の中に侵入してくるチャバネゴキブリやクロゴキブリのような“わたしたちの生活に害を及ぼすゴキブリ”は駆除してもいいと思っています。

 それ以外の、屋外にいる新種のゴキブリなどは“路上の分解者”の役割を果たしてくれるので、無理して駆除しなくてもいいのではないかと思っています」

──路上の分解者?

生物の死骸や排せつ物を分解し、有機物を無機物に戻してくれるゴキブリたちです。そういったゴキブリは無機物を多く含んだ“栄養豊かな土壌”を作ってくれるので、生態系でとても重要な役割を担っています。だから、すべてのゴキブリが“害虫”というわけではないんです

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 有吉さんが話していたように、日本には63種類ものゴキブリが生息しています。その中で、人間に害を及ぼすゴキブリはたった4~5種類だそうです。でも、その4~5種類のゴキブリがバイ菌やサルモネラ菌を運んできて、食中毒の原因になったりするんですね(第1回参照)。不衛生なゴキブリを家の中に侵入させないように心がけ、室内で見かけたら今回学んだ方法で退治するようにしましょう。

(取材・文/久保弘毅)