発酵温度を低くするのが、おいしさの秘訣

──「まろやか丹念発酵」とはどんな製法ですか?

田中「10年ほど前から採用しているのですが、ヨーグルトの本場・ブルガリア共和国の伝統的な発酵手法をヒントにして考案した当社独自の製法です。ヨーグルトを発酵させる際の温度はだいたい40~45℃くらいが一般的なのですが、明治ブルガリアヨーグルトはそれよりも低温で、通常より時間をかけて発酵させています。あえて発酵温度を低くすると、まろやかな風味となめらかな食感を実現できるんです

──多少、時間はかかってもおいしいヨーグルトを提供したいと?

田中「はい。しかし、できるだけ製造にかかる時間は短縮したいので、混合した原材料中の酸素濃度をあらかじめ下げてから乳酸菌を加えるようにしています。これも当社独自の製法になるのですが、酸素濃度を下げておくと、低温発酵させても通常の温度で発酵させたときと発酵時間がそれほど変わらないんです」

──酸素濃度を下げておくと、どうして時間を短縮できるのですか?

古川「明治ブルガリアヨーグルトを作るときには、2菌種の乳酸菌を使います。その2菌種が互いに助け合って増殖し、乳酸を活発に出すので発酵が進みます。

 ただ、乳酸菌には酸素を好まない性質があります。そのため、自分たちがより活発に増殖できるように、混合した原材料中の酸素を追い出そうとします。この性質に着目し、混合した原材料中の酸素濃度を最初から下げて、乳酸菌が増えやすい環境を用意しておけば、乳酸菌が自分たちで環境を整える時間をカットし、その分じっくりと低温発酵に時間をかけられるよう考案した技術が使われています」

わかっているだけで、乳酸菌の種類は500菌種以上もある!

──明治ブルガリアヨーグルトは2菌種の乳酸菌を使うと言われましたが、乳酸菌は全部で何種類くらいあるんですか?

辻「現在確認されているだけでも、分類学上の菌種として500菌種以上はありますね

──え、そんなに?

辻「はい。どの乳酸菌を使うかによって、ヨーグルトは酸味もなめらかさも変わってきます。

 人間の性格が十人十色であるように乳酸菌の性質もさまざまです。2菌種のもとに性質の異なる菌株(菌種をさらに細かく分類したもの)が多数あり、その菌株を変えるだけで発酵にかかる時間や風味、食感ががらりと変わってきます。乳酸菌って、本当に不思議な微生物だと思います。わたしもまだ知らなかったような乳酸菌の不思議な力に出合えると、ちょっと感動することもあります」

まろやか丹念発酵という独自の技術で作られる「明治ブルガリアヨーグルト LB81 プレーン」
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“発酵”の意味はなんとなくわかっている気になっていましたが、乳酸菌が好物の乳糖(糖分)をパクパク食べて、そのときに乳酸と香り成分が作られるプロセスが“発酵”だったんですね。それにしても、乳酸菌は500菌種以上もあるなんて……。次回も、ヨーグルトの奥深い世界を、引き続き明治の辻さん、古川さん、田中さんにご紹介いただきます。

◎第2回:【ヨーグルト#2】時代のトレンドはダイバーシティ。ヨーグルトの世界でも、乳酸菌の多様性がおいしさを決めていた(8月31日18時公開予定)

(取材・文/横堀夏代)