オーディションで3次審査へ! 運命の合格発表と、目を疑う“仕打ち”
2か月後、私は東京大学理科2類に合格した。
自分の番号を見つけたときは、喜びというより、深い深い安堵を感じた。もう巨人に追いかけられる夢も見なくていいし、半端なところで中断していたドラクエ(ゲーム『ドラゴンクエスト』)を再開して世界を救える。何より、ようやく夢が叶(かな)えられるかもしれない。
そして、大学1年生の終わりに受けた48グループのオーディションで初めて書類審査を通過し、2次の面接審査も通過、3次審査まで進むことができた。面接審査では、周りは若くて可愛い子ばかりで、自分が醜いモンスターかのように思えた。私の顔を一瞥(いちべつ)し、興味なさそうに下を向いていた審査員たちが、「東京大学1年生です」と言った瞬間、顔を上げたのが忘れられない。やはり東大は名前を出すだけでフックになる最強の武器だな、と思った。
歌とダンスも家で毎日、ひとりで練習してきた。ダイエットもして、化粧も頑張って研究した。それでも、どうしても顔はほかの人より劣るけど、どうかどうか、私の夢が叶いますように。
・・・でも、合格発表で、私の番号は呼ばれなかった。
頭が真っ白になった。何の感情も浮かんでこなくて、フラフラと会場を出て駅まで向かった。しかし、駅までの道筋が全くわからなくて、徒歩10分もない道を、30分以上さまよっていた。
途中でコンビニに寄って、ダイエットのためずっと我慢していた甘いデザートを買った。クリームがたっぷり入った甘い甘いワッフル、ひと口かじったのに何の味もしなかった。砂を食べているみたいだった。
そこで初めて泣いた。季節外れの大雨の中、雨か涙かわからないくらい大泣きした。どうやって家に帰ったかは覚えていない。家に帰って、少し携帯を触って、化粧も落とさず眠りについた。
目が覚めて、携帯を開いてツイッターを見たら、そこは「AKBになるために東大に入ったブスがいるwww」という話題一色だった。まだ夢を見ているのかと思った。なんで私のことをみんな知ってるの? 親にすら、オーディションのことを伝えていなかったのに。
混乱した頭でよくよく考えてみたら、私は前日、朦朧(もうろう)とした意識の中、SNSで審査員の人に「東大に入ったのにAKBに落ちてしまった、つらい、もう夢は叶わない」という趣旨のメッセージを、ご丁寧に顔写真が載ったアイコンで送っており、それを審査員の方が取り上げて、返信メッセージをアップしていたのだ。顔写真をアイコンにしたのは、3次審査にいた子だとわかってもらうためだった。まさかそれが多くの人の目に触れるなんて思ってもいなくて、頭がついていかなかった。
ネットの掲示板では、主に私の見た目への罵詈(ばり)雑言の嵐だった。正直もう、このときの気持ちはあまり覚えていない。夢が潰(つい)えた上に、さらに人々の悪意による追い打ちをくらい、これをすべて受け入れて消化していては心が死んでしまうから、脳が強制的に記憶にストップをかけているのだと思う。