「育ち」は今からでも変えられる! マナーは「型」から入ることが大切

 2020年に出版した『育ちがいい人だけが知っていること』は、ありがたいことにシリーズ62万部超のベストセラーになっているのですが、読者には「育ちがいい」という言葉をタイトルに使ったことが衝撃だったらしく、さまざまなご意見をいただきました。確かに「育ちのよし悪し」を語ることは、一般的にはタブーとされている風潮もあるのですが、私にとって「育ち」は、日常的に使ってきた表現なんです

 私のスクールに来てくださる方は、老若男女さまざまで、年齢も幅広い。また、お受験講座も開いていますので、小さなお子さんを持つ親御さんも多いのですが、多種多様な講座に参加されるみなさんが、口々にこうおっしゃるんです。「私は育ちがよくない」と。

「親の育ちがいいとは言えないのに、子どもにお受験をさせられるでしょうか」「結婚を前提として付き合いたいけれども、先方の家柄と釣り合わないのでは」など、「育ちがよくない」ことに起因する悩みをさんざん伺ってきて、気になっていました。

 ある講座で、40代後半の男性が「自分はお箸も正しく使えず、食事のマナーもわからないし、会話も下手。それはどうしてかというと、両親とあまり会話のない家庭で育ったからで、親を恨んでいます」と言われたんです。

「もういい大人なのですから、子どものころの環境のせい、親のせいになさらないで。 大人になったら、“育ち”は自分で作るもの。今からでも変えられますよ」とお答えしました。

 つまり、私にとっては、「育ちがいい」という言葉はポジティブな意味合いなんです。一般的には、親の家柄、幼少期の環境、しつけ、などを想像させると思うのですが、私の解釈では、そうではありません。自分を律して、自分を育て、成長させてきた。そういった方を「育ちがいい」と、とらえています。人が見て心地のよい振る舞いを知っているかどうか、それを実践しているか、それだけの問題です。ですから、「育ちは変えられない、だから、自分は変われない」と言いわけにしている方は、もったいない気がします。「育ち」は、今からでも変えられますよ。

 このことを著書の中だけでなく、さまざまな場で発信してきたところ、「とても勇気づけられました。私は小さいころから育ちが悪いと思っていたけれど、それは変えられるのだとわかってうれしくなり、涙が出ました」「コンプレックスを持っていた人生がもったいなかった」などと言ってくださる方も多く、私自身がとても勇気づけられました。

「講師をしていると、逆に私が生徒さんから教えていただく機会も多いんです」と語る 撮影/齋藤周造

 私は「型」からマナーを教えることに重きを置いています。精神論を語ったところで、「相手の心を読んで」とか「マナーは思いやり」「心です」と言われても、それはすでにご存じであり、誰しも当然のこととお考えでしょう。しかし、その思いやりの心をどうやって表すか、その術(すべ)がわからず、多くの方がお困りなのです。武道でも芸術や書道、茶道でも、まずは師匠の模倣をするところから入ります。マナーも同じで、カタチが整っていれば、その方を敬う心が相手に伝わるのです。

 今、「婚活講座」はもっとも人気の講座のひとつです。いちばん印象に残っている事例は、これまで70回もお見合いしてもご縁がなかったバツ2の男性が、レッスン後すぐにご結婚されたことです。「明日が71回目のお見合いで、ダメならついに諦めます」と講座を受けにいらっしゃいました。

「YouTubeやオンラインも見たし、本も読んでさんざん勉強しましたがダメでした」と悲壮感を漂わせてらしたので、初めましての挨拶から、次に会う約束を結ぶまでをシミュレーションして、細部までご指導しました。

 例えば、「レストランでは、彼女が座ってから座りなさい」「店員から“何になさいますか”と聞かれたときは、彼女が頼んだものをあなたも頼みなさい」とか、「今日は楽しかったです」というのは単なる社交辞令にとらえられかねませんが、「“〇〇さん、今日は本当に楽しかったです”と相手の名前を入れると、親近感を持ってもらえます」などなど……。

 ほかにも婚活の場合は、立ち姿勢、ウォーキング、テーブルマナーのほか、聞き上手になるように指導します。ただ聞いているだけではなく、相手のいうことを要約して、「あ、〜ということなんですね」と返してうなずく。そして、しっかりと自分を持って、意見を言う。そのなかで、しなやかで柔らかい言い回しができるよう伝授します。

 講座にいらっしゃった方に対して、まずは自信をつけてあげるのが私の仕事です。女性に対しては、メイクから指導を開始します。お顏の左側のみ私が担当し、右側はご自分でやっていただくと、違いがわかりやすい。その方の効き顔を判断し、「右側が可愛い」とか「左側から見たほうがきれい」とか、「そもそも、どちらから見られるのが好きか」「笑顔のときに、こちらのほうが口角が上がる」など、よい点を探しながら直していきます。