市川團十郎さんの言動に魅せられ、マナー講師の仕事にのめり込んだ
私がマナー講師になったのは、丸の内での会社員時代に、式典などで要人をご案内する「VIPアテンダント」という仕事を紹介されたことがきっかけでした。
損害保険会社の海外部に所属しており、部署には海外駐在から帰ってきて洗練された男性が多かったんです。あるとき、ロンドン帰りの部長がランチで老舗のフランス料理店に連れていってくださったのですが、そのエスコートぶりがとってもスマート。レストランのサービスの方が「何になさいますか」と部長に尋ねると、「こちらのご婦人からお願いします」と言われたことが衝撃でした。基本のマナーは知っていたはずですが、緊張感もあって、「部長に恥をかかせたくない。私ももっと、マナーやふるまいをきちんと学びたい」と強く感じたことが、マナー講師の仕事につながっていったのかもしれません。それまで保守的に生きてきたのに、「多分こういう機会は二度とない。やってみたい!」と、反射的にひらめいたんですね。
研修では、立ち居振る舞いやテーブルマナーなどをひと通り学んで、イベントや式典で、皇族の方などVIPのご案内をすることになりました。いちばん印象に残っているのは、歌舞伎役者の十二代目・市川團十郎さんの現場です。一日中お供しましたが、20代半ばの私にも終始、美しい敬語で接してくださいました。スタッフは控室に下がることになっていたランチにも、「あなたも一緒にお食事しましょう」と親切に呼んでくださったことが忘れられず、ますますこの仕事にのめりこんでいきました。
その後、アテンダントを育てる講師側にまわりました。子どものころは人前に出るのが嫌いで、発表したり意見を言ったりするのも大の苦手。それが、今、大勢の前で講義をしているのですから、「苦手だと思っていたことを職業にする人生もありますよ」と、いま悩んでいるお子さんやご両親にもお伝えしたいです。
マナー講師になってからは、新人研修、企業研修なども担当していました。当時、独立する気はまったくありませんでしたが、マナースクールを開校してすぐに新聞社から「男のちょいモテマナー」という連載の依頼があり、続いて、総合情報サイト『All About』のマナーガイドにもスカウトしていただき、マナーや立ち居振る舞い情報を発信し始めました。その後、出版社やテレビからも次々とご依頼いただくようになったんです。
あるテレビ番組で、ほかのマナー講師の方ともご一緒した際、人気MCの方から「マナー講師って、いつもそんなにビシッとしているんですか? 疲れませんか?」と質問されました。その方は「はい、マナー講師は24時間マナー講師ですから!」と立派なお答えをされていました。私はといえば、「いえ、家ではグダグダです」と申し上げましたところ、「安心しました」「そうですよね!」という反応も多くいただき、安心した覚えがあります。家庭や親しいご友人とご一緒のときと、
もちろん、正式の場では守らなければならないプロトコール・マナー(国際的なマナーやエチケット)や日本独特の礼儀作法もありますが、日々の生活においては「マナー以前、マナー未満」の事柄がとても多いんです。そこをどうしていったらいいのか、みなさん、とても悩むんですね。一般的なマナー本を読んでも載っていないような、「マナー以前、マナー未満」
(取材・文/Miki D'Angelo Yamashita)
【PROFILE】
諏内えみ(すない・えみ) ◎「マナースクール ライビウム」「親子・お受験作法教室」代表。“結果を出すスクール”として、洗練された上質マナーや美しい所作、スマートな社交術や会話力を指導しており、メディア出演も多数。映画やドラマでの女優のエレガント所作指導にも定評があるほか、社会貢献活動にも関わり、行政からの信頼も厚い。著書に大ベストセラーとなった『「育ちがいい人」だけが知っていること』(ダイヤモンド社刊)や『「ふつうの人」を「品のいい人」に変える 一流の言いかえ』(光文社刊)などがある。最新刊『大人の若見えを叶えるしぐさとふるまい』(大和書房)も話題に。