自分がトップスターになったことには「気づかなかった」、30歳で華麗に退団

 でも、せっかく入ったものの怠け者で、嫌いな授業のときは抜け出して、よく楽屋番のおじちゃんに、劇場の3階席に入れてもらって観劇していました。昔は、授業をサボるなんてあたりまえだったんですよ(笑)。近くの動物園や遊園地に遊びに行ったり、お弁当を持ってボートに乗ったりもしていました。宝塚というと厳しいイメージがありますが、あのころは、のんびりした時代でした。

 今とは違い、トップスター就任時の特別なお披露目などもなかったんです。自分がトップになったことにも、しばらく気がつきませんでした。主演が続いて、「あ、トップなんだ」と、なんとなくわかってきたくらい。そんな感じでぼーっとしていたので、下級生にはよく助けてもらいました。オスカルのカツラも、今のように作りがよくなかったので、下級生が毎日オスカル風の巻き髪にして用意してくれていました。

 ひとつの公演が終わったら次の公演の稽古、合間にテレビ出演もあったりと、とにかく忙しかったですね。みんなで京都に行ってグルメ巡りをするとか、食べることだけが楽しみでした。

 そんな中で、「30歳になったら退団しよう」と決めていました。細くて体力がありませんでしたので、娘役を持ち上げて踊る、リフトも重くて大変でした。ちょうどタイミングよく、『風とともに去りぬ』のスカーレット役がきたところで、「私も風とともに去ろう」と、劇団に退団の相談をしたんです。

 退団公演は、半年以上にわたって休みが1日もなくて、疲労困ぱいの日々でした。1日3回公演に加え 、最後の3日間は「さよならショー」をやることになり、極限まで痩せました。退団のごあいさつは、みなさん、涙、涙になることが多いものの、私の場合は、申し訳ないのですが解放感でいっぱいでした。

30代から闘病生活が始まり、50代で生死をさまよう。その中で見えたものとは

 退団後、1か月ほどで舞台に出演し、それからも舞台をメインに仕事を続けていたのですが、30代で肝臓を悪くして、真っ黄色の顔で必死に舞台に立っていたんです。とうとう倒れてしまったのが、53歳のとき。激しいむくみと呼吸困難に襲われて緊急入院し、難病のSLE(全身性エリテマトーデス。膠原病のひとつ)を発症しました。そこから60歳までは闘病生活が続き、あるときには「危篤です」と言われてお葬式の準備もしたくらいです。

 でも一度、死の淵に立ってからは、怖いものがなくなりました。死を恐れてもいないし、「この世は修業」と思って生きています。ですから命ある限りは、一生懸命、生をまっとうしないと。今は、薬で体調を保っていて、元気に過ごしています。

 '21年には、『70過ぎたら生き方もファッションもシンプルなほど輝けると知った』(主婦の友社刊)というファッションのコーディネートブックを出す機会がありました。Instagramでときどき、コーディネート写真を出していたら、フォロワーが一気に増え、出版のお話をいただいたんです。子どものころから洋服は母の手作りで、おしゃれに組み合わせるのが得意だったので、うれしかったですね。50代の闘病後、薬の副作用でうつになり、手持ちの服をほとんどすべて処分してしまったのですが、最近では本当に好きな、心地いい服だけを少しずつ買い足して、着回しながらコーディネートを楽しんでいます。

 今は心臓疾患もあり、「長期の舞台はやめてください」と主治医に言われているので、歌をメインに活動しています。私から歌をとったら、もう何も残らない。難病を乗り越えて知った、自分なりの“幸せのあり方”、それは、生きている今を楽しみ、「シンプルに生きる」ということなのです。

いらないものを捨て「シンプルに生きる」、私たちも心がけたいですね! 撮影/吉岡竜紀

(取材・文/Miki D'Angelo Yamashita)


【PROFILE】
安奈淳(あんな・じゅん) ◎1947年、大阪府生まれ。'65年、宝塚歌劇団に入団。'70年、鳳蘭と並ぶ星組男役トップスターとなる。とりわけ『ベルサイユのばら』で演じたオスカルは大きな当たり役で、第1期ベルばらブームの立役者のひとりとなった。'78年に退団後は『屋根の上のヴァイオリン弾き』『レ・ミゼラブル』『王様と私』『サウンド・オブ・ミュージック』などに出演。近年はライブやコンサートでも活躍中。

「誕生50周年記念 ベルサイユのばら展 ーベルばらは永遠にー」

 連載開始から50年を迎えることを記念して開催され、初登場も含めた貴重な原画を、池田理代子さんの作品への想いや言葉を交えながら展示。さらに、宝塚歌劇のコーナーやテレビアニメ、懐かしのグッズ、現在にも続く展開をたどるなど、多彩な切り口で不朽の名作の軌跡と全貌に迫ります──。

◎期間: 2022年9月17日(土)〜11月20日(日)
◎会場: 東京シティビュー(東京都港区六本木 6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階)

※展覧会の詳細やチケット情報等は公式サイトへ
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