──思い入れのある作品はありますか?
「『アドレナリン』シリーズが大好きです。ハードなアクション映画ですけど、コミカルなシーンも多い。彼自身、そういうのが好きなんじゃないかな。主人公が最初から最後までずっと走り回って暴れているみたいな。他の作品でもハードボイルドな役を演じていますが、原点はこういうアクション映画だろうと思っています」
──『アドレナリン2』では、エンドロールで御本人によるNGシーンも公開されていますが、楽しそうですよね。そんなシーンにも吹き替え版では声を当てています。
「はい。本人も思っていた以上に火薬の量が多かったみたいですけど、激しく爆発しちゃうシーンとかありますよね。あのNGシーンを見たときは“バカだなあコイツ”と思いましたけど(笑)。でも、あれって自分でも絶対に面白がっていると思います。そういうところが好きなんです。
こんなことを言ったら怒られるかもしれないけど、ジェイソン・ステイサムって、どちらかというと、C級やD級映画のような作りのときのほうが面白い作品になっていると感じますね。そういう映画のほうが演者としても輝いているなあと、声を当てながら思っています」
──最初に吹き替えを担当したときのことは覚えていますか?
「『Snatch』(※2)だったと思います。まだ彼が若いときでした。その頃から頭髪は今の形に近かったですけど、当時はもっと痩せていて、スラっとしていました。彼はもともと、水泳の飛び込み選手だったんですよね。だから、すごくスタイルのいい男だなという印象が強かったんです。2本目、3本目と吹き替えをやるたびに筋肉がついてムキムキになっていきました」
(※2)『Snatch(スナッチ)』:ジェイソン・ステイサムがブラット・ピットらと共演したクライムコメディ。2000年製作。
自分の声が嫌いで、収録語に聞き直すとゾッとする
──アフレコのときの印象深いトピックはありますか?
「『アドレナリン』シリーズで言えば、“もっと(声を)かすれさせられないか”と攻めすぎて、ものすごくせき込んだことがあります。初期の頃ですけど、あのときはやりすぎました」
──難しいシーンがあって、リテイク(録音のし直し)が多かったことなどは?
「ジェイソン・ステイサムの作品って、実は難しい台詞が少ないんですよ。アクションが多いので、“オイ!”とか“クソ!”とか口汚く叫ぶだけだったり(笑)。調子に乗ると喉を痛めてしまうので、そこは気をつけながらやっている感じです」
──ご自身が吹き替えた映像作品を、あとでご覧になることはありますか?
「たまたま見るときはありますけれども、自分から積極的に見ることはないです。そもそも、ぼくは自分の声があまり好きじゃないんですよ。今ではだいぶ慣れましたけどね。吹き替えの仕事を始めた頃は嫌で嫌でしょうがなかった(笑)」
──“渋くてセクシーな声”をしてらっしゃると思いますが。
「いやいや、自分の声を聞くと、なんだかゾッとしますね。気持ち悪いですよ。“自分の声が好き”という声優さんは結構いますけど。でも、ジェイソン・ステイサムの声は嫌いじゃないです。自分の声が嫌いだから“似ている”と言われると“う~む”となりますけど、彼の声は嫌いじゃない。不思議ですね」
──ご自身の声が独特であるという自覚はありますか?
「それはあります。独特というか、“喉を引っかくような声”とは言われますね。その他には“しゃがれ声”とか。だから、字幕で映画を見ているときに、まだ広く知られてないけどキャリアがある俳優の声がしゃがれていたりすると、“これはオレに吹き替えの役がくるかもしれない”と思うときはありますね。その後、その俳優が実際に売れてくると、“きた、きた、売れてきた!”と、ひそかに期待してしまいます(笑)」
──逆に、字幕版の洋画はよくご覧になるんですね?
「見るときは、字幕版のほうが多いです。長く吹き替えをしていると、吹き替え版は声を当てている人の顔が浮かんできちゃうので。“また芳忠(※3)がやっているよ”とか(笑)」
(※3)大塚芳忠(おおつか・ほうちゅう):声優。『ワイルド・スピード』や『エクスペンダブルス』などで山路氏と共演多数。