取材で聞くという過去のエピソードも、単に「こういうことがあった」と出来事だけを聞くのではない。経営者やプロジェクト担当者などから、その行動レベルまで具体的に話を聞くことで、根底に流れるスタンスのようなものをとらえるのだという。

 もし、そのスタンスが「人によって評価の分かれるもの」だったとしても、それを隠すことなく記事にする
 例えば、『日本仕事百貨』で以前取材したというコーヒー豆のダイレクトトレードを手がけるベンチャー企業は、コアな価値観として“行動すれば、どうにかなる。どうにかする。”というものを持っていた。困難な問題が発生しても、力を合わせ、夜遅くまでかかるとしても解決を目指すという社風。そんなベンチャー企業らしい熱い価値観は、大きく共感できる人もいれば、そうでない人もいる。それでもナカムラさんたちは、この“どうにかする”という姿勢を記事の軸として盛り込んだ

仕事に求める価値観は、人によって千差万別だと思うんですよ。だから、その企業の根っこだというものが見つかれば、飾らずに隠さずに、記事の中に書いていきます。企業が大切にする価値観に共感する求職者が来てくれてこそ、良いご縁につながると思っています

現在の転職市場にあふれる「気軽に応募を」という言葉や、企業の本音が見えてこない求人票などにも、ナカムラさんは疑問を感じているという 撮影/高梨俊浩

週6日も通っていた中目黒のバーがアイデアの源泉

 そもそも、このような求人サイトの構想は、週に6日も通うほど気に入っていた中目黒のバーで思いついたものだった。

「幼少期から転勤族だったこともあり、“良い場づくり”への想いが人一倍強くて。大学院を卒業したあとは不動産会社に就職しました。いろいろな経験を積ませてもらい、本当にいい会社だったのですが、一方で漠然と“このままだと後悔するかも”と今後のキャリアにモヤモヤした気持ちを抱えるようになりました

 そんな中、近所のバーに定休日以外はほとんど通っていました。ある時ふと、“こんなに通うなんてよっぽどだな”と、通い詰める理由を考えてみたんです。そうしたら、私はバーのお酒や食事、お店の雰囲気よりも、本音で話せる店主や常連客に会いたくて通っていることに気がついて。仕事で考え続けてきた良い場づくりには、“人”が大切な要素であるとわかったのです

 それまで不動産業界で良い場づくりに挑んできたナカムラさん。その事実に気がついたことで、これまでとは全く異なる“人と場所をすれ違いなく結びつけ、良い場をつくる”アプローチとして、求人サイトの運営にたどり着く

あこがれの仕事ではなく、「しっくり」となじむ仕事

 しかし、この取り組みを始めようと考えた当初は、周囲の多くの人に反対されたという。

「日本仕事百貨のアイデアを説明しても、だいたいの人に理解してもらえなくて。会社でいちばん信頼できる人に相談しても、“無理だからやめたほうがいい”と言われてしまったんです。そのとき、誰かを説得するよりも、自分で始めてしまったほうが早いと感じました。それで、最初は個人事業主としてサイトの運営を始めました。どうやってお金を稼ぐかは......あまり考えてなかったですね」