周囲の反対といった困難に遭遇しても、今日まで『日本仕事百貨』を続けてこられたのは、自分のアイデアへの自信と、取材して記事にするという仕事に“しっくりとなじむ感じ”があったからだった。
「はじめてサイトを立ち上げたときは、掲載料はもらわずに取材をしていました。ただ、実績も少ないサイトに求人を載せることを嫌がる方も多く、自分も取材して記事にすることは未経験。“こんな文章でよく仕事ができるな!”と、お客様に怒られることもありました。
それでも15年続けられたのは、この仕事をしているときの自分がしっくりときたから。仕事の選び方もいろいろありますが、あこがれて就く仕事って、実際にやってみると意外とイメージとのギャップが大きいことも多い。恋愛でも、熱烈に恋焦がれる人よりも、背伸びせずに一緒にいて楽な人のほうが長続きします。私自身、我慢強く何かを続けられるタイプではないんですよね。だから、“やっていて苦ではない”ことを仕事にするという観点も、大切なのではないでしょうか」
焚火の前なら、かしこまらなくて済む。ありのままの合同企業説明会
やっていて苦ではない、自分らしく働ける仕事を、あくまで自然体で“生きるように”手がけていく。ナカムラさん自身が体現し、求職者にも届けたいこの価値観の源泉は、幼少期にのびのびと育てられたことにあった。
「自分の子どもを見ていて、よく思います。私の小さいころに似ているなあと(笑) 。私も息子のように、制限されることが嫌いで、自由でありたいタイプでした。アグレッシブに動くというか。今でこそ少し落ち着きましたけど、若いころはその感じが強かったと思いますね。やりたいことに近づいて、もっと自由になりたいと思っていました」
自由に、自然体に、ありのままに。この価値観を体現する採用イベントも、日本仕事百貨では実施している。『かこむ仕事百貨』という、焚火を囲んだ合同企業説明会だ。スーツを着てかしこまるのではなく、北軽井沢のキャンプ場で、焚火を囲みながら普段着の企業担当者と求職者が場を共有するという異色のイベント。本音を語りづらい現在の就職・転職イベントに風穴をあけたかったのだという。
「説明会って本来は企業や人がありのままにつながれる場であるべきなのに、現状ではお互いがかしこまっているように感じます。オルタナティブなものをつくりたくて始めたのが、このイベントなんです。焚火があれば、ぼーっとしていてもいい。きちんと落ち着いて、その人のペースで話せますから、企業と人が自然体で関係性を育みやすいんです」
最後に、キャリアに悩む多くの方へのアドバイスを聞いてみた。
「そうですね……自分の子どもがキャリアに悩んでいたとしたら、いろいろな人と話しなさいと伝えると思います。義務教育から高校、大学、会社と社会に敷かれたレールのままに生きていくと、どうしても似たような人としか関われないんですね。
でも、運転免許を取りに行ったり、成人式に行ったり、横丁で飲んだりするとわかるように、社会には本当にいろいろな人がいます。そういう人たちを知ることで、どんなふうにでも生きていけそうだと勇気が湧いてくる。多様な人と出会って、いろんな場所に飛びこんで、自分の世界を広げてほしいです。おすすめは......近所に通えるバーをつくることですかね(笑)」
(取材・文/市岡光子、編集/FM中西)