女性陣が「超越」するのは、二人だけの幸せな時間があったから
──小劇場ドリームの実現にはスタッフの存在も欠かせませんよね。監督も、根本さんが「山岸聖太(さんた)さんが手がけてくださるなら」と指名されたとか。山岸さんのどんな点を信頼していらっしゃるのですか?
聖太さんが私の作品に抱く感想をいつも聞いていて、受け取ってほしいおもしろがり方をしてくれているなと思っていて。自分が描いていることを客観的に愛おしく思いながらおもしろがってくれる相手に託したかった、というのが大きな理由です。
──ラストの「超越」は、人生を肯定できる物語を自分の力で手に入れたいと前向きに捉え直した女性たちを鼓舞する奇跡の宴に見えました。ただ一方ではクズ男との恋愛を肯定しているようにも捉えられてしまう。この表裏一体を、根本さんはどのように受け止めていらっしゃるのでしょうか?
観客や第三者から見て「なんかバカっぽいけど一緒にいると幸せそうだな、この人たち」と感じる瞬間が何度も描かれるじゃないですか、この作品。そういう二人だけの幸せな時間があったって記憶が、絶対的に大事だと思うんです。それが他者と一緒にいる意味になり得る、と感じるくらい。他の人からはどう見えていても、本人たちだけが知っている時間というものが好きなんだと思います。
──クズ男ぶりを塗り替えるほどの記憶なんですね。
たしかに「私は幸せ」と思い込むことで状況をどうにかしようとした女性たちの話とも捉えられますよね。でも伝えたいのはそこじゃない。恋愛や友情といった関係性を越えて意気投合したり団結したりする瞬間が、他者と一緒にいる意味なのかなって。
──個人的には、彼氏に染まる金髪ギャル(伊藤万理華)に、ノリで生きるフリーター男(オカモトレイジ)が誕生日プレゼントとして差し出したものが、作品を象徴するアイテムに思えます。いちばんバカっぽくて幸せそう(笑)。
あれは普段のレイジさんのファッションから思いついた賜物(たまもの)です(笑)。せっかくお芝居をしていただくので「これは自分の役だな」と感じてもらえたらいいなと思って。
──そうだったんですね! 自分の趣味まる出しのプレゼントって受け取る相手を選びますよね?
相手が自己満足で選んだような意味わかんないアイテムをもらっても、万理華ちゃん演じるギャルはそんなの関係ないくらい贈り主の彼氏が大好きっていうのが……どうにも笑えますよね。
──舞台設定を「ビフォーコロナとコロナ禍の東京」に改めたことで生まれる各カップルの価値観も、シリアス一辺倒でなくどこか笑える方向に描かれていて。
聖太さんとは笑いの趣味がわりと合うんですよね。各カップルの会話を編集で落とさず、キャラクターとして立たせる方向に考えてくださって。脚本の打ち合わせで「長すぎるセリフは削りたい」という話も出ていましたが、聖太さんが「くだらないことをしゃべっているようで、すべてのセリフが彼らの人柄を表すのに必要だから削れない」とおっしゃってくださったのもうれしかったです。