「3人の自分がライバル」と感じた小説版の執筆

──小説版についてもお聞きしていきますね。本作も小説デビュー作の『今、出来る、精一杯。』と同じく、登場人物の内面が一人称のモノローグで語られ、章ごとに語り手が次々と移り変わります。表現の幅が広い映画や舞台と比べて、成果物が“テキスト”のみと限定的な小説執筆において苦労した点、あるいは楽しかったポイントは?

 私の場合、役者と稽古場でしゃべっていることの延長で小説を書いている感覚があって。演出する中で、たとえば「この二人は(舞台に表れてはいないが)こういう時間を過ごしたんだと思う」とか「こういう出会い方だったのかもね」みたいなことを話すんですね。それを役者がくみ取って体現する、ってことを繰り返してきました。役者とコミュニケーションを図る時間がけっこう長いので、その延長線上に小説執筆があったんですよね。

 ただ『もっ超』は7年前に一度しか上演していない作品ですから、当時のことを忘れている部分がたくさんあって。なので映画が完成してから小説版を書き始めました。舞台も映画もうまくいったから小説で失敗できないと思って、これが2022年の上半期、ものすごいプレッシャーでした(苦笑)。

根本宗子さん 撮影/矢島泰輔、メイク/小夏、スタイリスト/田中大資、衣装/tanakadaisuke

──第一報のコメントで、根本さんが「改めてこの作品に今の自分が言葉を書き加える作業は、当時の自分との戦いのような時間でした」とおっしゃっていたので、映画の脚本は演劇版(2015年)をライバルにしていたことはわかったのですが……小説は何がライバルだったのでしょうか?

「演劇の方がおもしろかったね」と思われないように書いた、映画版の脚本ですね。小説版は映画プロモーションの一環で出版される側面もあるじゃないですか、小説を買って読んでから映画を観ようと思う人もいるわけで。だから読み終わって「映画は観なくていいや」となるんじゃなくて、映画も観てほしい。「この小説がどうやって映画になっているの?」と感じてもらいたい。この境地を目指した結果、演劇・映画・小説とも自分で書いている同じ作品なのに、3人の私がライバルみたいな状態になりました。

 でも映画の関係者は「自分の作品なんだから絶対大丈夫でしょ!」って軽々と言うんですけど……自分で書いているからこそ、それぞれ魅力的に描き分けるのが難しいんですよね。納得いくまで悩み続けました。

根本宗子さん 撮影/矢島泰輔、メイク/小夏、スタイリスト/田中大資、衣装/tanakadaisuke

──映画と小説の違い、感じましたよ。個人的には小説のラストで男性陣の反応がちゃんと描かれているのがよいな、と思いました。

 舞台では、女性の奮闘に対して男性も応えてがんばっていく姿勢みたいなものを演出的に見せたんですよね。でも映画は女性目線で迫った方がキレイにまとまるから、あのラストが正解だと思います。一方で男女どちらのリアクションも書ける小説では、男性側の感情を描きたかった。映画をご覧になったあと、ぜひ小説も読んでほしいです。

根本宗子さん 撮影/矢島泰輔、メイク/小夏、スタイリスト/田中大資、衣装/tanakadaisuke

──演劇・映画・小説をコンプリートしたいま、根本さんは過去のご自分を“超越”できたと思いますか?

 舞台の台本を書いたときより作家として成長できたかな、とは思います。当時はすごく頑固で、もし映画化の依頼があったとしても「いや、演劇がいちばんおもしろいんで」とトガって100%断っていたと思うので。別ジャンルのスタッフとコラボレーションして形にできるほどの技量も器も人間力もなかった。

──他者の介在を許せるようになった?

 そうですね。監督やプロデューサーとタッグを組んでリメイクするのも、「それはそれで人生でやっておこう」とおもしろがれたのは収穫でした。製作サイドの要望に応えながら執筆することを、楽しい現場で経験できたのもよかった。完全再現だけど、監督のオリジナル感もありますしね。もちろんチームが作品を愛してくれたからそう思えているので、本当に感謝しています。 

 ここ数年、狂ったように演劇をつくっていた20代前半の作品を小説や映画化することが多かったのですが、今度は最近の演劇作品を別ジャンルに持っていってみたいです。作風も少しずつ変わっているし、舞台で新しい試みも行っていますので。いまつくっている新しい演劇をまた違うジャンルで展開したいと感じていただけるように、これからも劇作を続けていきたいと思っています。どこに行っても私は演劇作家なので。

(取材・文/岡山朋代、編集/福アニー)

【Profile】
●根本宗子
1989年生まれ、東京都出身。19歳で劇団、月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降、劇団公演すべての作・演出を手がけるほかに、さまざまなプロデュース公演の作・演出も担当。2016年から4度にわたり、岸田國士戯曲賞の最終候補へ選出され、近年では清竜人、チャラン・ポ・ランタンなどさまざまなアーティストとタッグを組み完全オリジナルの音楽劇を積極的に生み出している。常に演劇での新しい仕掛けを考える予測不能な劇作家。22年初の著書となる小説「今、出来る、精一杯。」(小学館)を刊行。長編映画の脚本を手がけるのは初となり、9月には2冊目の著書となる『もっと超越した所へ。』の小説版を発売。23年1月には高畑充希とタッグを組む新作演劇「宝飾時計」が控えている。

【Information】
●映画『もっと超越した所へ。』2022年10月14日(金)公開
クズ男に沼る4人の女性たちが意地と根性で奇跡を起こす!? ブチ切れ&ブチ上がりの恋愛バトルが開幕!
出演:前田敦子、菊池風磨、伊藤万理華、オカモトレイジ、黒川芽以・三浦貴大、趣里、千葉雄大
原作:月刊「根本宗子」第10号『もっと超越した所へ。』
脚本:根本宗子
監督:山岸聖太 

公式サイト:https://happinet-phantom.com/mottochouetsu/
Twitter:https://twitter.com/mottochouetsumv
Instagram:https://www.instagram.com/mottochouetsumv/