週に2日しか営業しないパン屋の秘密とは

──個人店だと営業日が不定期だったり、週に2、3日しか営業していないお店もありますが、定休日が多いのには理由があるのでしょうか。

「大きいお店だと、従業員がたくさんいるので交代で出勤して毎日営業できる。個人経営の店だと、パンを作るための仕込みが1日がかりだったりするんです。だから表向きには2日休んでも、1日しか休んでない状況なんです

──販売はしていなくても、実際は働いているってことなのですね。

「そうなんです。だから逆に、週に1日しか定休日のない小さなお店は結構、無理をして営業している場合が多い。ひょっとしたら2日お店を休んで、きちんと体調を整えてやられたほうがいい場合もあるんです。パンのクオリティにも関わるので、心身ともに元気なほうがいいかなっていうのは思いますね。だからお店が週に2日休むっていうのは全然、不思議なことじゃないんですよ

──駅前などでチェーン展開しているパン屋さんに慣れていると、どうしても毎日お店が開いているのが普通の感覚になってしまいますよね。

「消費者の立場からしたら、いつ行ってもたくさんパンが並んでいるほうがいいかもしれないけれど、それによってある種、パン屋さんが苦しめられている部分もあるかもしれない。例えば長時間労働とか、良い素材が使えなくなったり……」

──個人店ならではの、苦労があるのですね。

「大量生産や、毎日営業することができない個人店の事情を理解して寄り添うと、またパン屋さんめぐりが面白く感じられると思いますよ。

 最近は、3日や4日休むパン屋さんも増えていますね。むしろそういう店は、地域の方も理解して来られている。お客さんがお店の休みを把握するようになっているんですよ(笑)。週に3日とか1日しかやってない店って、逆に面白いと思います。レアというか、そこにたどり着けたらちょっとうれしいみたいな。そういう営業をされている店って、すごくマニアックで振り切ったことをされている場合が多いんですよ

池田浩明さん 撮影/山田智絵

──面白い営業をされているお店ってありますか?

『HUGSY DOUGHNUT』(東京都多摩市)というお店は金土日しか営業していなくて、店主のご自宅でやっているんですよ。聖蹟桜ヶ丘駅から歩くのですが、場所もすごくわかりにくい路地にあるからちょっと冒険っぽい。そういう営業日が少ない店にあえて行く、というのも面白いような気がします」

──パン屋さんに行くのが目標ということですよね。

「日常のパンを買うという感覚ではないかもしれないけれど。僕も聖蹟桜ヶ丘って行ったことがない場所だったんですけれど、ちょっと歩いたら多摩川の河原がすごく広々としていて、そんな場所でドーナツを食べたら、それだけで楽しい。半径3キロにとどまらずに、たまには普段は絶対行かない街のパン屋さんを目指して、ちょっと散策したりするのも楽しいですよね

──逆に近場でのパン屋さんの楽しみ方はどうでしょうか。

おいしいパン屋さんって、やっぱりおいしそうな香りがしているものなんですよね。祖師ヶ谷大蔵の『ラトリエ ドゥ プレジール』(東京都世田谷区)という店は、入り口の何百メートルも手前からパンのにおいがするんですよ。あとは例えば、クロワッサンが焼きあがった時にバターの香りがするとか。そんなに難しく考えなくても、おいしそうだなって感じたら、それはいいパン屋さんなんですよ

個人店でおいしいパンを買うコツとは?

──個人店の場合は、ガラスケースに商品が並んでいる状態で店員さんと一対一だと、どういうパンを選べばいいのか緊張したりするのですが……。

「確かに緊張しますよね。特に自分の後ろに人が並んでいる場合とか、選ぶのに時間がかかっちゃったら悪いなって思ったり。『クロワッサン・オ・ザマンド』とか、パンって難しい名前も多いじゃないですか。すんなり言えないんじゃないかと思って、順番が来る前に小声で練習したりとか(笑)

──池田さんでも緊張されるのですね。例えば、これまで食べたことがある菓子パンではなく、天然酵母のパンは“どういうパンだろう?”と思ったりするのですが、お店の人に聞いてみてもいいのでしょうか。

こだわりのあるパンって、その店が一生懸命作ったものなので聞いてみて大丈夫です。行列ができている時は、長く話すとちょっと周りのご迷惑になるかもしれないですけど、基本的には聞いてみて、会話を楽しむみたいな姿勢でいいのかなって思いますね」

──そこからパンの知識も増えるのでしょうか。

やっぱりパン屋さんって、すごく使命感だったり、パン屋という仕事に生きがいを感じている人も多いんです。その1つとして、ご近所においしいパンを提供するっていうことも大事だったりする。例えば、ひとり暮らしのご老人がパンをよく買いに来てくれて、天気の話をする。そういうことに喜びを感じているパン屋さんもいらっしゃるんですよ。だから、お店の人と会話をするのは、パンのことに限らなくてもいいのかなって思います。食べたパンがおいしかったから、また買いに来ましたって言うと、お店の人もめちゃめちゃ喜んでくれると思います