コロナ禍の巣ごもりが平成ファッションの“バズり”を加速

 Z世代を中心とした若者の志向や価値観にマッチした平成カルチャーのムーブメント。しかし、「話題になっているほどの実感がない人も、実は多いのではないか」と、Tajimaxさんは指摘します。

Tajimaxさんなぜなら、ほとんどがSNS上で完結しているからです。たしかに高校生たちがルーズソックスを履いている姿を目にしますし、渋谷の109に行けば『SUPER LOVERS』のTシャツや『BETTY’S BLUE』のバッグを身につけた子がいますが、それが大多数を占めるかといえば、数える程度。リアルな日常では、SNSのバズり方ほどの反響はありません。どちらかというと、ストリート系ファッションのワンポイントに、90年代のブランドのバッグやシャツを取り入れている傾向が強いと思います。

 それは、見ているメディアによって、それぞれ情報の速度が違うからだと感じています。例えば、Twitterではバズっていると騒がれていても、Instagramではそうでもなかったり。SNSで平成カルチャーがどんなに騒がれていても、街に出ると全員が同じ格好をしているわけではないのは、そういう理由からだと思っています」

HYSTERIC GLAMOUR(上)・ALBA ROSA(下)のショップバッグ。平成から令和にかけて、今も支持される2つのブランド 写真提供/Tajimaxさん

──韓国で流行した“Newtro(ニュートロ)”といわれるリバイバルブーム。これらの影響も受けているのでしょうか。

Tajimaxさん“Newtro”とは、“NEW(今)”と“RETRO(昔)”を融合させた新しい過去という意味の韓国発の造語で、K-POPファッションとして生まれました。昨年、ロングブーツやチェック柄のプリーツスカートなど、日本の90年代ファッションアイテムが流行ったのは、 韓国のBTSやBLACKPINKなどのアイドルファッションの影響もあるように思います。特に、2020年には新型コロナウイルス感染症が拡大し、巣ごもり生活の影響で、ネットを利用する頻度が増えたので、彼らのファッションがネットを介して浸透しやすく、日本でNewtroのムーブメントが加速した一因だと考察しています。人は自分の知っている情報や、記憶があるものに興味が湧きます。平成カルチャーは、だからこそネットとも相性がよかったのだと思います」

ルーズソックスとソックタッチ。最近街で見かけるものは、以前よりもボリュームダウンしたシルエットに。編集Hも高校生の時にはずいぶんとお世話になった 写真提供/Tajimaxさん系

今後は、2010年代の「平成カルチャー」が注目される

 こうした現状をかんがみて、平成カルチャーは今後のどのような動きを見せるのか。Tajimaxさんはこう予想します。

Tajimaxさん「今のところわかりやすい“平成アイテムのリバイバル”が多いですが、ガールズファッションは細分化されている部分が多いので。まだまだ深掘りできるところがあると思います。私の平成ガールズカルチャー論のTwitterアカウントだと90年代後半の原宿系の「デコラ」(※1)や2007年の「姫ギャル」(※2)「デコ」文化が人気です。

 今後は、エンタメでいえば2010年あたりの音楽やアニメを含めたカルチャーが見直されるのではないでしょうか。アーティストでいえば、西野カナやももいろクローバーZなどです。すでに著名な方たちがいろんなメディアで発信しています。また2015年ごろは、音楽ビジネスにおいてサブスクが始まった時期でもあり、マーケターもこの時代を振り返っています。当時は一部でしか盛り上がらなかったコンテンツやファッションが、今後再評価されるかもしれません」

※1:デコラとは、過剰に装飾して″かわいい″に身を包むファッションの名前(出典:はるきゅ氏 @kirakirananiku)。そのド派手でファンシーなファッションからは、90年代後半に流行した「シノラー」を思わせる。
※2:姫ギャルとは、レースやリボンがあしらわれたエレガントなファッションに身を包むギャルのこと。小麦肌のギャルとは異なり、色白のメイクを施し、パッチリとしたアイメイクが特徴的。

Tajimaxさん「また、個人的には2000年代前半の『Bガール』(※3)ファッションがそろそろ復活してほしいと思っています。 今年は、Y2K(2000年ごろのファッション)が注目されましたが、当時流行した『LB-03』や『baby Shoop』のような個性的なファッションも、Z世代にはウケるのではないかと思っています

※3:Bガールとは、HIPHOPやR&Bの文化に影響を受けたファッションに身を包む女性のこと。オーバーサイズな服や、体のシルエットがわかるようなピッタリとした服装など、幅広いコーディネートが存在する。

 最後に、Tajimaxさんに「平成カルチャーの魅力」について、ずばりお聞きしてみました。

Tajimaxさん「平成は、経済的には低迷した時代ではありましたが、私自身は青春時代を過ごしてきた時期でもあり、その感覚から“自由で明るい”イメージを魅力に感じる人が多いように思います。それに“平成”は、みんなが知っていて、共通の会話ができるコミュニケーションツールにもなります。それゆえに、“ピークを過ぎても語れるカルチャー”という認識です」

元祖ミルキーペンこと、ハイブリッドミルキー。写真に直接イラストや文字を書くことができる画期的なアイテムとして、学生の必需品だった 写真提供/Tajimaxさん
雑誌『Seventeen』(集英社)・『egg』(大洋図書)。eggは2014年に一度休刊するも、2019年に復刊している 写真提供/Tajimaxさん
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 何年たっても話題に事欠かない「平成カルチャー」。時代のカルチャーにエッセンスとして取り入れられ、共存していく。それが、今、若者にウケている理由なのかもしれません。今後もますます、目が離せない平成カルチャーです。

(取材・文/西谷忠和、編集/本間美帆)


【PROFILE】Tajimax(タジマックス) ライター・コラムニスト。東京都出身。2018年からSNSを中心に90年代〜00年代の平成ガールズカルチャーを紹介している。Webメディアの『オリコンニュース』『現代ビジネス』『ビジネスジャーナル』などで平成ガールズカルチャー関連のインタビュー取材ほか、『アーバンライフメトロ』『クイック・ジャパン』などに寄稿。90年代〜00年代の平成ガールズカルチャーのコレクターでもあり、古雑誌をメインに膨大なアイテムを所有している。
Twitter→@rainbow_wool、Instagram→@tajimaxx_0318