バッドエンドはありえない。つらかった原体験は、いい材料になる

──林さんのゲームに表れる、 “闇を抱えながらも前を向いて歩みを進めていくことの美しさ”は、ご自身の過去の経験が理由になっているんですね。

「そうだと思います。僕はゲームから、つらさに抗う人間の美しさに魂を揺さぶられて力を与えてもらいました。料理人とかも知っている「おいしさ」以上は生み出せないと思うのですが、それでいうと、過去の原体験が自分の人生の中でいちばん“おいしかった”ので、遊んでくれる人にも同じものを提供したいと思うわけですよ。その味を再現するために、原体験を振り返りながら都度、材料を変えてみたり、調理方法を変えてみたりして作っている感じです。

──ハッピーなテーマのゲームを作ってみる......みたいな発想にはならないんですか?

「なるときもありましたよ。でも、僕が作れるのはそういうゲームではないと思っています。『CRYSTAR -クライスタ-』制作後に闇のある作品に疲れたと思って、カワイイ女の子がキャッキャウフフしながらハッピーな旅をする作品を作ろうと思ったんです。だけど、アイデアがひとつも出てこなくて(笑)。結局、自分には原体験で得た闇の力しかないんだなと気づいてから、光の作品を作るのは無理なんだなって。理不尽の中で抗うコンテンツしか作れないなって思っています」

──林さんが作っているその“料理”は、過去に生きづらさを感じていた林さん自身へのギフトになりえますよね。

「それはありますね。自分にとってのゲーム制作って代償行為なんですよ。だから“自分はこうやって救われたかった” “自分の過去の感動体験をリバイバルしたい”という思いが強くて同じような思いをしている人たちに体験してもらって、救いたい気持ちがあるのだと思います。だから、バッドエンドはありえないし、遊んだ人が最後に気持ちよく終われる作品を作りたいと思っています」

10月で発売1周年を迎える『モナーク/Monark』 撮影/山田智絵

──『モナーク/Monark』の作中に描かれる「あなたのエゴが空虚な世界に綺麗な虚飾をもたらせますように」というメッセージは、生きづらさを感じる人たちにとって大きな救いをもたらしてくれたのではないかと思います。

「僕が『モナーク/Monark』で描きたかったことは、“自分の虚飾(=エゴ)を信じて生きてください”ということなんです

 人間の生み出した文明なんて、ほとんどすべてが思い込みで、ここにある机も本来はただの木で、人間の虚飾によって意味を生み出されたもの。人間の文化水準で物事をみて存在しないものを、さもあるように扱っている確かなものなんてひとつもない中、苦しみながら生きることってすごく損だなと思うんです

 本当に正しいものがないのだとすれば、自分なりのエゴに従って生きていけばいいのでは、と。そして、せっかくエゴを振りかざすのであれば、誇れるような美意識を持てたほうがより美しい未来になるだろうと考えて、この言葉を描いた記憶があります