“魅力ある少女”に変身すべく奮闘中。60歳で男の子役を演じたのは楽しかった

ときに柔和に、ときに力強く、自身の思いを語ってくれた 撮影/近藤陽介

──10代から50代までを演じますが、役作りに苦労するところはありますか?

ひとりの人物を若いときから老年に差しかかるまで演じられることは、俳優にとって魅力的です。もちろん、声の出し方、トーンなども年をとるにつれ、変えていくのですが、声色や紛争を変えるだけでは足りません。内面をきちんと解釈をしたうえで、自然と10代、20代にも見えるようにしなければなりません。内側からわき出てくる変化を自然に出せれば、魅力ある少女に変身できるのではないかと思い、表現を模索しています

──16歳役での登場となりますが、杉村さんは84歳のときに16歳役を演じられています。今の年齢でどのように演じようと思われますか?

「杉村さんが80代で16歳役を演じる。それを楽しみに、見にいらしていた方も多いと思います。森光子さんの名舞台『放浪記』でも、若い時代からだんだん森さんの芝居が変わっていくところが見どころです。この戯曲には、ひとりの役者がどんなふうに年を重ねていくか、その芝居を楽しんでいただける面もあります。

 16歳を演じるにあたって、演出家で夫役の段田さんから私への注文は、特にありませんでした。5年前には、20歳のときに主演したミュージカル『にんじん』で、主人公の男の子役を再び演じたのですが、60歳でやったときのほうが芝居をしないですんだ、というか、開き直って楽しかったんです。見た目は仕方ないとしても、気持ちは理解できる。“子ども役を演じれば、子どもの心になれる”というところが、芝居の醍醐味(だいごみ)ですね」

──杉村さんの当たり役を演じることに対して思うことはありますか。なにか杉村さんとの思い出がありましたら教えてください。

「杉村さんがご病気になってしまい、作品自体がこの世に出なかったのですが、実は、テレビドラマの現場で2日ほど一緒に撮影したことがありました。あの杉村さんとお話ができると思い、ずっと隣に座っていて、お身体の調子がいいときには言葉をかわしました。そのとき、“あなたたちは、いいときに生まれたわね。私たちはやりたい芝居ができないときもあったし、やっても憲兵が後ろに立っていて、それはだめだ、と怒鳴られる時代だった。それでも私たちはやりましたけどね。だからあなたたちは、いい時代なのよ、言いたいことを言えて”とおっしゃってくださったことが思い出されます。そうか、それが今回の芝居のことだったんだと、感慨深いものがありました。演技で勝つか負けるかとなったら、負けるに決まっています。ですから、杉村さんのように演じようと思ってはいないんです