ウクライナ戦争を受け「当たり前だと思っていた世界が変わっていくのでは」

「自分らしく、がんばります!」と気合い十分  撮影/近藤陽介

──演出の段田安則さんは、「補欠が4番バッターのコーチをしていいのか、という気持ちにもなる」と、ご自分を補欠、大女優・大竹さんを4番バッターにたとえていますが、段田さんとは演出についてなにか話をされていますか?

「普段、役者同士で芝居の話をするには難しいところがあります。“こうすればいいんじゃないかな”と言えそうで言えない、変な遠慮があって、演出家がそこを仕切らなければならないのですが、段ちゃんは、それが言える唯一の役者仲間30年近く一緒に芝居をしていて、稽古中はもちろん、幕が開いてからも、特に翻訳劇などは、一緒にとことん掘り下げてくれます。

 初演のときは、コロナ禍でしたから、出番の少ない人は稽古には出ないで帰らなくてはいけない状況だったのですが、そんな難局でもなんとか芝居を続けていけたのは、段ちゃんの手腕があってこそ。私たちの仕事は、しつこく粘ってどこまでも追求していくべきであり、それができるいい演出家だと、信頼しきっています

──今年に入って戦争をより身近に感じることが起こり、作品の背景と共鳴するところもあると思うのですが、'22年の今、この作品を上演することの意義、作品に臨むにあたっての思いについて伺えますか。

「この物語は日露戦争が終わったころから始まります。そして、焼け野原になった東京で終わります。終戦から10年くらいたってから生まれた私たちが演じるわけですが、世界中で紛争や戦争があるなか、われわれの時代の日本では、平和にのほほんと生きることができた。今では、戦争を知らない人がほとんどになってきています。

 でも、ウクライナの戦争が始まったところで、“当たり前だと思っていた世界が、これからも変わっていくのではないか”と考えました。これは反戦的な芝居ではないので、無理に反戦心を抱いてもらう必要はないのですが、“生きていく上では、何が起こるかわからないし、何が起こっても生きていくんだ”というメッセージを感じます。明治・大正・昭和という激動の時代の中で生きなければならず、その時代に流される自分を受け入れながらも前を向く布引けいの生き方を、特に若い人に見ていただきたいと切に思っています。

 思えば、ちょうど'22年に出演した舞台『ピアフ』の初日が2月24日で、ウクライナにロシアが侵攻した日でした。劇場で主人公のピアフが歌っているところに、“戦争です、戦争が始まりました!”と、ドイツ軍が侵攻してきたことを知らせる台詞があるんです。5度目の『ピアフ』上演だったのですが、これまでに感じたことのないリアリティをもって、“戦争が始まりました”のひと言が伝わってきたんです。“これまで私たちは、なんという薄っぺらいお芝居をしてきたのだろう”と反省も込めて、言葉を伝えることの意味を、改めて考えさせられました。やはり、私たちは常にリアリティを持って演じなければならないのです

──コロナ禍での再演となりますが、改めて、どのように舞台をパワーアップしたいと考えていますか?

「初演のときは、大きな演舞場にお客様が半分も入っていない日もありました。実は、最初の日は、“これだけなんだ”とショックを受けました。いつもお客様がいっぱいであることを当たり前のように思っていたことを恥じ、“この状況でも劇場に足を運んでくださる方がひとりでもいるのであれば、私たちは演劇を続けよう”と思いを新たにした、衝撃的な1か月でした。初心に戻らせてくれた舞台です。それから2年過ぎて、まだコロナは続いているのですが、やはり、お客様がいらして、喜んだり泣いたりしてくださる、その熱気をパワーにしながら芝居をしていけることを願っています

 ただ、私は、あまり先のことを考えることはできなくて、1週間先ぐらいしか見えていないんです。お芝居をやっているときは、その1回のためだけに生きているかもしれません。今日がいちばん最高でなくてはいけないし、今日より明日をもっとよくしていきたいです

──これからの女性の生き方はどうなると思われますか。

「女性とか男性とか、性別は関係ないという考え方も今はありますが、私は、女性にしかないものは絶対にあるし、また、男性にしかないものも絶対あると考えています。でも、性別問わずいちばん大切なことは、自分の心に嘘をつかないで生きていくことです。自分の意見をはっきり言うこと。一人ひとり、そういうふうに生きてほしいですね。何事も“どうでもいいや”と思わず、自分は何をどう考えて生きていくのか、きちんと把握しながら生きていきたいと、私も思っています

(取材・文/Miki D'Angelo Yamashita)

舞台『女の一生』
2022年10月18〜10月23日@東京・新橋演舞場
2022年10月27〜11月8日@京都・南座
2022年11月8日〜30日@福岡・博多座

作:森本薫/演出:段田安則
キャスト:大竹しのぶ、高橋克実、段田安則、西尾まり、大和田美帆、森田涼花、林翔太、銀粉蝶、風間杜夫

※講演詳細、チケット情報は松竹公式HPへ→https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/202210_enbujo/