──自動販売機を通して医療を受けられる時代が来たら、これはもう立派な社会インフラですね。水や電気みたいな必需品ですね。
「その点でいうと、私はすでに自動販売機は社会インフラのひとつだと考えています。例えば、今は“災害ベンダー”といって、災害時に飲料を提供できる機能がある。またショッピングモールや駅などにはAEDを搭載した自動販売機もあります。
それだけじゃなく、実は自動販売機って立っているだけで暗い夜道を照らしてくれるわけで、防犯にも貢献しているんです。自動販売機がなくなったら、日本中がすごく暗くて危険な場所になってしまうと思います。もう立派な社会インフラですよね」
──なるほど。想像できないですが、確かに自販機がなくなったら社会はもっと危険な場所になってしまう……。
「そうなんですよ。ですので、この記事を通して“自動販売機がある場所を覚えていてほしい”ということを伝えたいです。いざというとき、自動販売機の場所を思い出すだけで危険を回避できたり、命を救えたりする可能性があります」
──もはや風景の一部なので見過ごしがちですが、ちゃんと存在を認識することが大事ですね。前回、自動販売機を擬人化するお話がありましたが、そう考えると自動販売機って「いつも優しく見守ってくれてる大人」みたいに見えてきます。
「そう思っていただけたらうれしいですね。自動販売機はとことん優しいんですよ。だからこそ、私たちも自動販売機に対して丁寧に接するべきだと思います。
リサイクルボックスにサイズが合わないプラスチックカップを入れるのなんてもってのほかです。そもそもゴミ箱じゃなくリサイクルボックスなので、カン・ビン・ペットボトル以外は捨てちゃいけません。これも意外と知られていないので、ぜひ伝えたいです。
もう一度、自動販売機の優しさを認識することで魅力に気づき、私たちもインフラである自動販売機に丁寧に応える。それが自動販売機の可愛らしさとか、おもしろさに気づくきっかけになると思っていますね」
「自動販売機を趣味にすること」は素晴らしく裕福だ
石田さんは「自動販売機は日本のおもてなし文化の象徴です」と語った。いやいや、私にとっては、石田さんこそがおもてなしの人だった。
取材日は9月中ごろの暑い日だったが「記事が出るのは10月ですよね。半袖だと季節感が合わなくなりますから……」と、撮影用にジャケットを着用してくれた。相手を気遣えるからこそできる行動である。
石田さん自身に思いやりの心が備わっていたからこそ、自動販売機の優しさに気付けたのかもしれない。いや、自動販売機からの学びがあったのかも。どちらにせよ、日本人にとってもはや風景の一部と化した自動販売機に注目すること自体が、すばらしく豊かだ。
メンタルに焦りがなくゆとりがあるからこそ、見慣れた光景を再確認できるし、人におもてなしの心を注げる。これはサブカルチャー全般にいえるのかもしれないが、自動販売機を趣味にできるって、実はすごく裕福なことなのかもしれない。石田さんのお話を伺いながらしみじみと感じた。
石田さんがおっしゃるとおり、自動販売機はいたるところにあり、気軽に楽しめる趣味だ。気になった方はあらためて「飲み物を買う」という一連の流れを、ゆっくり楽しんでみてはいかがだろうか。人として成長できる"おもてなし"を学ぶきっかけになるかもしれない。
(取材・文/ジュウ・ショ、編集/FM中西)