他人に似合うメイクが自分にも似合うとは限らない

「何年も肌がコンプレックスだったので、きれいと言っていただけたときは涙が出るほどうれしかったです」と当時を振り返る 撮影/吉岡竜紀 

 それからは、何よりも肌を大切にしなければならないという一心で、仕事でご一緒したヘアメイクさんたちに詳しく話を聞いたり、化粧品メーカーの方に突っ込んだ質問をぶつけてみたり、プロのみなさんから情報収集することが習慣づいていったんです。

 当時は、女性ファッション誌の最盛期。誌面のメインはファッションで、美容情報の重要度はまだ低く、最後のほうに数ページあるだけ。あるブランドの口紅で、“この色が流行する”となると、似合う似合わないにかかわらず、その口紅さえ塗っていれば誰でも「おしゃれな人」でした。

 日焼けしていたとき、撮影でモデルが集まると、私の顔色は他の人よりくすんでいました。黒い肌の上に白いファンデーションを塗るから、グレーに見えてしまうんです。流行だったフューシャピンク色の口紅をつけると、肌の黒さが強調されて似合わない。同じ口紅をつけたモデルたちと一緒に並び、ポラロイドで試し撮りをして写りを確認したら、やっぱり私だけ顔色がグレー。試行錯誤の末に、よりくすんだローズ系の口紅を塗ったら肌がクリアに見え、ようやく撮影ができたことがありました。

 そのとき身にしみてわかったのが、“他の人に似合うものが自分に似合うとは限らない”ということ。きれいになりたくて口紅を塗っているのに、その口紅のせいで余計に顔がくすんでしまうこともある。そんなこともあると知らせなければ、という使命感に駆られて、インタビューを受ける際には「趣味は美容を研究することです」と答えるようになりました。

 失敗を重ねながら学んできた分、自分がいいと思えるものはオススメしてもよいのでは、とさまざまな化粧品の特徴について語り始めたのが27〜28歳のころ。美容家と呼ばれる方たちもいなくて情報が少ない時代だったので、他の人には私のような苦労をしてほしくないと、化粧品について一生懸命伝えていましたそうするうちに“美容を語る女優”のような役割をいただき、どんなアイテムを使っているか、といった今なら定番の企画でたびたびメディアに登場するようになったんです。