スイス、インド、イギリス、ドイツ。櫻井さんを魅了する世界の鉄道たち

──95か国も撮影に行かれた中で、鉄道写真の撮りがいがある国はどこですか?

「ベストはスイスで、ほぼ毎年行っています。スイスの鉄道は世界一密度が高く、周囲16キロ以内に鉄道があるんです。日本は鉄道が発達しているといわれていても、北海道に行くと200〜300キロの範囲にも鉄道のない地域があります。

 スイスの鉄道は、“撮って!”と呼んでくれているかのようなんです。鉄道のプランナーが、“この絶景を見せてやろう”と意図してルートを考えるんですね。いちばんの絶景は、ランドヴァッサー橋でしょう。氷河特急が走るアーチ状の橋で、世界遺産になっています。長いトンネルを出たところがいきなり絶壁になっていて、その出口が直接、ランドヴァッサー橋につながっているんです。これほど美しく、迫力のある写真が撮れるところはないと思います。

ランドヴァッサー橋を見上げた様子。目をみはる美しさ! 撮影/櫻井寛

 スイスは自国が美しいことを認識しているから、“スイスの美しい自然、山々を見に来てください、鉄道でどこにでも行けますよ”という、おもてなしの心で、外国人がいかに快適に乗れるかを考慮して列車をつくる。しかも、スイスの電車は基本、自由席なんです。これも、乗客が好きに座席を移動して窓の外の美しい風景を見てください、という気持ちの表れですね

──ほかにも魅力的な国はありましたか?

意外にも、インドは世界遺産の鉄道が世界一多くて、おもしろい国です。世界遺産に登録されている鉄道は8つあるのですが、インドの鉄道は、文化遺産にもなっています。100年以上、いっさい近代化されていない、というのが登録理由ですが(笑)。

 あとは、イギリスが好きですね。伝統と格式、古いものを大事にする、何もかもが古い、だから発達もしない。今から150年前と同じ方式のまま。今も100台ぐらい蒸気機関車を保存しています。日本の比ではないですよ。

 現役の蒸気機関車が走っているドイツも好きです。東西ドイツの時代、国境に近かったところはずっと封鎖されていて、'90年にベルリンの壁が崩壊したときに初めて、人が立ち入ることができました。なんとそこには、東ドイツ時代の蒸気機関車がたくさん残っていて、現役で走っていたんです。今も走っていて、そのまま文化遺産として保存されています

──何度行ってもまた撮りたい、という国はどちらですか?

行った回数がもっとも多いのは、やはりスイスで、もう時刻表もいらないほどです。今年の10月22日には、スイス鉄道が世界最長の列車を走らせ、ギネスに挑戦する式典に行く予定です。あとは順位をつけると、2位イギリス、3位ドイツ、4位アメリカ、5位オーストラリアですね。

 アメリカ大陸横断鉄道は全路線乗っています。アメリカ人だって、そんな人はいないと思います。景色がすばらしいし、多様性もあってアメリカは広大だな、と。やっぱり夢の国ですよ。オーストラリアもそんな感じですね。

 それと、意外にもとても好きな国としてフィンランドを挙げたいと思います。『アレグロ』という列車に乗ると、3時間ぐらいでロシアの港湾都市、サンクトペテルブルクまで行けたんです。そこからモスクワにも簡単に行けた。もう乗れないんでしょうね」

──コロナ禍で旅に出られないときは、どのように過ごしていらしたのですか?

「日本の鉄道は、コロナ禍でも撮りにいきましたよ。旅に出ていないときには、とにかく時刻表を見るのが好きです。ときとして実際の旅より楽しいです。夢がありますよね」

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 終始、目を輝かせながら鉄道にまつわるエピソードを語ってくれた櫻井さん。インタビュー第2弾では、鉄道ファンが唸(うな)るお宝グッズたちを紹介していただきます!

このグッズたちはいったい・・・? お楽しみに!  撮影/齋藤周造

(取材・文/Miki D'Angelo Yamashita)


【PROFILE】
櫻井 寛(さくらい・かん) ◎鉄道フォトジャーナリスト。'54年長野県生まれ。昭和鉄道高校、日本大学芸術学部写真学科卒。出版社写真部勤務をへて'90年に独立。'93年、航空機を使わずに88日間世界一周。'94年『交通図書賞』受賞。『日本経済新聞』『毎日小学生新聞』『はれ予報』『ロケーションジャパン』など連載中。 著書は代表作に『オリエント急行の旅』(世界文化社)、『ななつ星 in 九州の旅』(日経BP)。最新刊は『日本の鉄道 車両と路線の大図鑑(私鉄編)』(講談社)。著書は共著も含め 100 冊超。95か国訪問。渡航回数は 240回以上。好物は駅弁。 日本写真家協会、日本旅行作家協会会員。東京交通短期大学客員教授。