亡くなった母からの言葉で一念発起、“出版革命”を起こすべく挑戦中!

真っ直ぐに目を見てお話してくれた永松さん。周囲から学びながら道を切り開いていく姿がカッコいい! 撮影/近藤陽介

──そのあとは飲食店をやりながら、作家業にも取り組み始めることになるんですよね。

「ウェディング事業もしていて、たまたま結婚式に来ていた出版社の社長に、“この店、面白いとは聞いていたけど本当だね。あなた、本を書いてみませんか”と言っていただき、31歳で初の著書『斎藤一人「もっと近くで笑顔が見たい」』(ゴマブックス刊)を書きました。最初は飲食業と執筆活動を並行していたのですが、スタッフやお客さんたちには、“オーナー、何やってるの?”、“ベストセラー作家になるらしいですよ”と、よく笑われていました。居酒屋のカウンターで、“今に見とけよ”と言いながら、本を書いていたんです。そのうち、本当に本が売れるようになり、講演の仕事が増え、その講演を聴いて店に来てくださったお客さんのビジネスの相談にも乗るようになりました。すべては成り行きだったんですよね。

 飲食業・講演・出版事業の3本柱で走っていて、それぞれに相乗効果がありました。最初は本と講演ばかりに時間を割いていて、スタッフもふてくされていたんですが、30代後半ぐらいから、講演がない日に店に出ると、“なんでいるの”という反応に変わっていきました。“たまには休みたい”と言うと、“いや、どんどん講演に行ってお客さんを集めてきて”とまで言われるようになって(笑)。講演にいらした方がお客さんになってくれるサイクルができてきたんですね。そして、人財育成JAPANという会社を起業しました。本を書きたい、講演をしたい、起業したいと言う方に、そのノウハウやマインド的なものをお教えし、著者、講演家、そして名経営者として育成していく会社です」

──人生が順調に進んでいったように感じます。

でも、そうやって突っ走っていたときに、母の病気と死を経験して人生を考え直したんです。母の遺書には、“あなたが日本一の作家になる姿を見てみたい”と書いてあった。“よし、じゃあまた東京に行こう”と奮起しました。飲食だったらどこでもできるんですが、出版は、やっぱり東京なんです。飲食業は、徐々にスタッフに引き渡していきました。当初は、講演依頼は引き続きあったものの、“やばいな俺、ほんとに出版だけになっちゃったよ”と、先行き不安でしたね。

 そんな中、『人は話し方が9割』を出版できました。この本で、母親の遺書に書かれていた夢が、まさかの実現を果たしたのです。発売初年度の'20年から約2年半にわたってビジネス書の売り上げで日本1位、'21年は総合売り上げ日本1位。前者の記録は、おかげさまで歴代初とのことです。12月頭に発表があるのですが、下半期も日本一を取れたら、ビジネス書史上初の3連覇ということになります。初年度に日本一を取ったとき、母の遺影に、“母ちゃん、日本一になったよ”と報告したら、“おめでとう! ところであんた、この勲章を使ってこれから何するの”と言われたような気がして、本の力で日本を元気にしようと決めました。それには出版業界を元気にしなければならない。そして著者を元気にし、新しい著者を育成するための、出版プロデュース業をスタートさせました」

──その出版プロデュースから派生して、新たなプロジェクトを始められたそうですね。

「出版社と読者を巻き込んでの出版プロジェクトをスタートしました。キャッチコピーは、“本の力で日本を元気に”。そこから派生して、今は『チラヨミ』という、著者本人が登場してビジネス系の新刊を紹介する動画サイトのプロデュース、そして未来のベストセラー著者を発掘するための、TSUTAYAさんとすばる舎さんとの共同プロジェクト『日本ビジネス書新人賞』に取り組んでいます。『チラヨミ』は'22年4月から始めて、約半年で140〜150本ほど配信しています。せっかくなら、『チラヨミ』とTSUTAYA『日本ビジネス書新人賞』 を結合しようということになり、TSUTAYAの主要店で『チラヨミ』のコーナーができました。今は、さらにこれを広げていくべく、さまざまなプロジェクトを画策している最中です。

 飲食業などを起業してきたこともあり、気持ち的に、物書き業だけでは生きていけないんですよ。やっぱり頭が実業家になってしまっている。だから、自分で書くだけではなく、たくさんの著者を育てていきたいと思い始めたんです。このサイクルを作れば、ひょっとしたら出版業界が盛り上がるかもしれない。書店や出版社が元気なら、著者も安心して本を書ける。今、この根っこのインフラから作っているところです

──編集者は、新しい著者探しに苦労していますから、出版界にとっても画期的なプロジェクトになりますね。

「そうであるといいですね。このプロジェクトを始めて、“世の中にはこんなに本を書きたい人たちがいるんだ”と気づきました。『日本ビジネス書新人賞』は、ほとんどプロモーションをすることなく、企画書が300本も集まったんです。最初は“100通きたら御の字だよね”、なんてプロジェクトメンバーたちと言っていたんですが、まさかの3倍。これを大々的にやったら、1000本は超えると思います。300本から10本くらいまで絞り、10月28日に、TSUTAYAの本社でステージを組んで、最終プレゼンテーションが行われる予定になっています。その中の最優秀賞は、すばる舎からの出版と、TSUTAYAでの全面展開が決まっています。

 これが今、僕たちが取り組んでいる挑戦です。仲間内では“出版革命”と呼んでいて、何らかの革命が起きたら、今度それを本にしようよと話をしています。これからどんどん衰退していくと思われる出版業界が、もしかして活況を呈(てい)していくかもしれない、そんなビジョンを反映したものです。これを成功させて、出版業界以外にも大きなインパクトを与えていきたいと思っています。

 なんにせよ、これができるのは、狭く深く付き合うことができている仲間たちのおかげです。今からの時代は、広く浅くではなく、狭く深くの人間関係を作っていく人が、必ずうまくいくようになっているはずです

(取材・文/Miki D'Angelo Yamashita)


永松茂久(ながまつ・しげひさ) ◎株式会社人財育成JAPAN代表取締役。大分県中津市生まれ。2001年、わずか3坪のたこ焼きの行商から商売を始め、'03年に開店したダイニング『陽なた家』は口コミだけで毎年4万人(うち県外1万人)を集める大繁盛店になる。自身の経験をもとに体系化した「一流の人材を集めるのではなく、今いる人間を一流にする」というコンセプトのユニークな育成法には定評があり、全国で多くの講演、セミナーを実施。'16年より拠点を東京・麻布に移し、現在は執筆だけではなく、次世代著者育成プロジェクト、出版・経営コンサルティング、出版支援オフィス、講演など数々の事業を展開する実業家である。110万部突破の『人は話し方が9割』(すばる舎)ほか、著書多数。'22年10月に新刊『君は誰と生きるか』(フォレスト出版)が刊行される。

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