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関東地方を中心に、話題の人気シェフのお店と人生ストーリーをご紹介。笑いあり、涙あり……厳しい世界を生き抜いてきたシェフたちの言葉には、重みがあります。
取材したシェフに、いま注目する人材を挙げていただき、リレー形式でお送りします!
 

おいしい

『ラペ』松本一平シェフ、おでん屋の息子がフレンチで人気に! “つながり”とSDGsを重視しコロナ禍のその先へ

SNSでの感想
松本一平シェフ。真剣なまなざしから、この業界で本気でたたかってきたことがわかる 撮影/佐藤靖彦
目次
  • ベルギーで修業し東京で腕を磨く。サステナブルな季節のコースが人気
  • コロナ禍で気づいた“つながりの大切さ”。新しいことは何でも試し道を切り開く
  • 『ラペ』松本一平シェフのスペシャリテ
 いま話題の人気シェフのお店と人生ストーリーをご紹介、次の料理人を推薦していただき、リレー形式でつないでいく連載「人生を彩る シェフの美食リレー」。
 第2回目は、東京・日本橋にある創作フレンチ『La Paix(ラペ)』の松本一平シェフにご登場いただきました!

ベルギーで修業し東京で腕を磨く。サステナブルな季節のコースが人気

『La Paix(ラペ)』の松本一平シェフは、歴史ある老舗の並ぶ東京・日本橋で、18年にわたって新しいフランス料理を発信してきた。20年近くにわたる再開発によって、この界隈は伝統と革新を融合したトレンドスポットとなったが、2004年に松本シェフが料理長を務めることになったフレンチレストラン『オーグードゥジュール メルヴェイユ』(現在は閉店)のオープンに際しては、「この街は保守的。フランス料理なんて新しいことをやっても失敗するだけだよ」と反対されたという。その予想を覆(くつがえ)し、瞬く間に人気店となり、満席が続いた。'14年、『ラペ』を立ち上げ独立するときも、松本シェフは日本橋を選んだ。

「古きよきものを残しつつ、常に進化し続ける日本橋は、多様な文化を取り入れ、新旧さまざまなお店が共存しています。ここなら、日本から発信する新しいフランス料理を実現できるはず。自分の目指す店にふさわしいロケーションなんです」

『ラペ』の外観。ドアを開けると、地下の店内へと続く階段が現れる 撮影/佐藤靖彦

 和歌山県の実家は、関西風の白じょうゆを用いたクリアな出汁(だし)が自慢の懐石おでん屋だった。母の姿を見て自然と料理の道をめざし、奈良県の職業訓練料理学校で働きながら、住み込みで料理を学んだ。フレンチ懐石『Le Benkei』で修業をスタート。“お箸で食べるフランス料理”をコンセプトのひとつとした、和フレンチの先駆者的な店だった。そこで学んだ料理の見た目などの華やかさから、本格的なフランス料理の道に進むことを決心。東京・六本木にあるフレンチ『ヴァンサン』の城悦男シェフのもとでキャリアをスタートさせ、ギャルソン(ウェイター)やパティシエ、ソーシエ(主にソース作りを担当するシェフ)になるまでの5年間で、古典のフランス料理を習得していく。

「そんな折に、シェフの後輩からの紹介で、ベルギー・ナミュールにある1つ星レストラン『レッソンシェル』で修業する機会を得たんです。約100席もある人気のグラン・メゾンで、“とにかく人手が欲しい”と仕込みからパティシエの仕事に至るまで、なんでも任せてもらえました。ブリュレのようなデザートを料理に取り入れる新しい調理法などにも触れ、感性を磨くことができましたね」

 1年ほどで日本に戻り、実家のおでん屋を手伝いながら、お店の営業時間前を利用してフレンチのランチを出していた。おでん屋でフレンチというギャップが評判を呼び、メディアでも頻繁に取り上げられ、人気店となる。

「そのまま和歌山でお店を出すことを考えていたんですが、“せっかく海外で修業までしたのに”と両親に反対され、東京に出て挑戦することにしたんです」

 上京した松本シェフは、東京・麹町の『オーグードゥ ジュール』に2番手のシェフとして就職。2年後、前述したグループ店『オーグードゥジュール メルヴェイユ』に移り、料理長を10年務めた。

「ベルギーで働いていたとき、“日本人がどうしてフランス料理を学ぶのか?”と聞かれたことが、自分のフランス料理を見直す転機となりました。もっと日本を深く知り、日本の四季を色濃く反映させた料理を作るべきだ、と触発されたんです。それからは、日本人だからこそ作りあげられるフランス料理を追求し、生産者の声を聞いて、日本ならではの食材を探していきたいという思いでやってきました」

 オーナーシェフとなった現在の店『ラペ』では、旬の食材にフォーカスした季節のコースを編み出した。フルーツの桃をふんだんに使用した「桃のコース」が大好評となる。夏には、“鮎”、秋には“栗ときのこ”、などテーマを決めて、コース自体をスペシャリテに仕立てた。漠然と「おまかせコースを食べに行こう」となるより、「“桃のコース”を食べに行こう」と思ってもらえるほうがリピーターを増やせると考えたからだという。

「実は、この桃のコースは、和歌山の生産者さんから廃棄する桃の話を聞いて、見た目は悪くても味が抜群な桃を、さまざまな調理方法で料理に使えないかと考えたことから生まれました。近年、SDGsの取り組みで、“フードロス”や“サステナブル”などの言葉をよく聞くようになりましたが、もともとフランス料理では、野菜のクズもうまく生かしたり、骨からも出汁をとってソースにしたりと、食材を余すことなく使うのが、ごく当たり前のことでした。

 サステナブルな概念を取り入れたのは、桃だけではありません。農家さんと直接お話をして、規格外の野菜やほかのフルーツも仕入れ、メニューに取り入れています。また、“MSC認証水産物”(水産資源や環境に配慮した持続可能な漁業で獲られた水産物)、ASC認証水産物”(責任ある養殖により生産された水産物)も早くから導入しました

 これらの取り組みが認められ、’22年には、サステナビリティを積極的に推進するレストランに付与される、ミシュランの「グリーンスター」も獲得している。

「捨てられるにはもったいない食材がたくさんある。できる限り生かしたい」と松本シェフ 撮影/佐藤靖彦
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