借金する覚悟で、土地を買い新たな建物を建てて再出発

 使命に燃えると言いつつも、家族の住む場所はどうなるのか。そこで、ふたりは自分たちで「女ま館」を作り直せばいいのだと、ついに同じ日の出町内で、土地と家を買うことを決める。

 とはいえ小さな娘さんがいて、裕福とは言い難いクリエーター生活をしていた大井さんと中野さん。いったいどうしたのか?

なけなしの貯金をはたいても足りなかったので、借金することを覚悟したんです」と中野さん。

 まんがのために借金……! どこまでも突き抜けるまんが愛。すると、その熱意に絆(ほだ)された大井さんの父親が、「新・女ま館」開設に向けて、金銭的な援助をしてくれることとなる。

こちらの熱意に負けたという感じだったんでしょうね。でもありがたかったですよね、これでまんがたちの行き場が確保できるって。うれしかったです」(大井さん)

 大井さんの父親から援助を受けて現在の「女ま館」の土地を購入した夫婦。貯金をつぎ込んで小さな平屋付きの100坪ほどの土地に、新たに「女ま館」の建築を始めることに。建築にあたっては、友人で建築家でもあるエンドウキヨシさんにお願いしてデザインを進めていったそう。

入り口からもおびただしい数のまんがが見える

隣にある平屋が母屋なんですけど。見てもわかるように、『女ま館』のほうが、母屋よりも立派なんですよ。どっちが母屋なんですかといった感じですが(笑)。でも、『女ま館』を作るならちゃんとしたものを作ろう、とエンドウさんと時間をかけながら二人三脚で作りました」と、建築当時のことを思い出しながら中野さんはクスッと笑う。

2階は屋根裏部屋のような雰囲気

 2階建ての「女ま館」は「蔵」を意識して作られている。外観や内側の壁に使われた青い色には、色彩心理学的に心を沈静化させる効果があるそうだ。確かに、中に入って過ごしていると読書に集中でき、時間を忘れてしまいそうになる。

 2階は、さながら屋根裏部屋のような雰囲気。座敷スペースもあり、ここでは寝転びながら、座りながら、自由にまんがを楽しむことができる。これもこだわりのひとつだ。

2階の各所に座卓と座布団があり、ゆっくりまんがを読める

 年月やこだわりを費やし、ついに自宅よりも手をかけた「新・女ま館」がオープンし、とんだ追い出し劇から一転し、再スタートを切った。

 中野さん・大井さんは当時のことをこう振り返る。「今思えばとっても無謀だったけれど、でも私たちはそれだけ少女まんがに対してこだわりを持っているし、文化を残していきたいし、諦めるつもりなんか全くなかった。その気持ちだけが自分たちを突き動かしてきたのですよね」

  ◇   ◇   ◇  

 第2弾記事(11/9 17:00公開)では、6万冊もの蔵書はどうやって集めたのか、館の来訪者はどんな人なのか、少女まんがの魅力についておふたりに話を聞いていく。

【第2弾:蔵書は6万冊!『少女まんが館』を25年続ける夫婦の原動力になった「少女まんがを甘く見るな!」という思い

(取材・文/永見薫)

〈施設情報〉
■少女まんが館
住所/東京都あきる野市網代155ー5
アクセス/JR五日市線武蔵増戸駅より徒歩25分(2.2km)
入館料/無料
定期開館日/4月〜10月の毎土曜日 13:00〜18:00
冬期休館/11月〜3月
※来館の際は事前に要予約。詳しくはホームページを参照。

*ホームページ:https://www.nerimadors.or.jp/~jomakan/

〈PROFILE〉
中野純(なかの・じゅん)
少女まんが館共同館主、体験作家、闇歩きガイド。1961年、東京都生まれ。年子の姉と妹に挟まれて少女まんがにまみれて育ち、やがて姉や妹よりも少女まんがに詳しくなる。パルコでイベント企画、宣伝を担当後、フリーに。1989年に大井らと有限会社さるすべりを設立、1997年に大井らと少女まんが館を創立。『闇で味わう日本文学』(笠間書院)、『「闇学」入門』(集英社)、『闇と暮らす。』(誠文堂新光社)、『月で遊ぶ』『闇を歩く』(アスペクト)などの暗闇関係の著書のほか、地獄の婆鬼、奪衣婆について熱く語った著書『庶民に愛された地獄信仰の謎』(講談社)も。

大井夏代(おおい・なつよ)
少女まんが館共同館主、研究編集者。1961年、神奈川県生まれ。少女時代、『ポーの一族』主人公の吸血鬼エドガーがいつでも入ってこれるようにと2階の自室の窓を開けて寝た。大学の卒論のテーマは少女まんが。パルコ『アクロス』編集室を経て、フリーの編集者、ライター、ストリートファッション考現者に。最近は雑誌の少女まんが特集の監修も。著書に『あこがれの、少女まんが家に会いにいく。』(けやき出版)など。中野純との共著に『少女まんがは吸血鬼でできている:古典バンパイア・コミックガイド』(方丈社)。