誰だかわからない、“あしながおじさん”たちから助けてもらう
ところで、「女ま館」の蔵書はいったいどのようにして集めているのか、と不思議に思う人もいるかもしれない。実は、開設当初の蔵書以外は、大半が全国のファンからの寄贈で成り立っているというのだから驚きだ。
「女ま館」の取り組みが話題になり新聞や雑誌など、メディアに多く取り上げられてきた。それを見た全国の人たちから蔵書が寄贈されるようになったのだそう。蔵書は膨れ上がり続けて、現在の約6万冊になったというのだ。
「ありがたいことにみなさん、段ボール箱単位でどんどん送ってくださるんですよ。本当に圧倒的なボリュームで届くから、ご覧のとおり整理が追いつかなくて、段ボールの山積み状態なんです。棚もいっぱいだから、そもそも棚を作る作業をしないと……。だから段ボール箱から出すこともできなくて、大忙しなんです」と苦笑いの中野さん。
寄贈者は女性が多いのかと思いきや、実は男性が多いのだとか。少女まんが愛好家の男性はコレクションすることを好む人が多く、ひとしきり集めて読んだ後に、まとめて寄贈してくれているのでは、と中野さん・大井さんは推測している。
「寄贈してくれるのは顔も知らない、会ったことのない人がほとんどなんです。一度も顔を合わせない状況で、何年もただただ送ってくれている人もいます」と中野さん。
「荷物の伝票に書かれた名前と住所を見て、“今年もこの人からだ。こんな人なのかな? あんな人なのかな?”と想像するんですよ。なんだか文通のような感じ。
中にはオークションなどで一気に競り落とした後、直送で『女ま館』へと送ってくださる人も。貴重な古い雑誌などは、もはやオークションなどでないと手に入らないんです。それをわかっていて送ってくださる方がいます」と大井さんが続ける。
なんだかまるで、あしながおじさんのようなストーリーだ。姿形の見えない仲間たちが20年以上も中野さん・大井さんを支え続けている。不思議なつながりだが、温かくて優しい気持ちになる。
ここで育った娘や新たな世代にとっても、1周回って面白い場所になる
では、「女ま館」の来訪者は、どんな人なのだろうか。開館しているのは毎週土曜日の午後のみ、事前予約制と、準備が必要でプレミア感がある。
1997年の開館からしばらくは、少女まんがを愛読していた中野さん・大井さんと同世代くらいの男女が、少年少女時代を懐かしむために訪れていたという。
「開設当時って、“少女マンガが好き”って大っぴらに言いにくい雰囲気もあったんですよね。だけど、“好き”な気持ちをどこかで分かち合いたいという思いもあって、それを体感しにここへ訪れている人が多かった、という印象がありますね」と、大井さんは振り返る。
ところが10年ほど前から、この傾向が変わり、訪れる人の幅はどんどん広がっている。
「新型コロナウイルスの感染が拡大する前は、日本のアニメ・マンガブームの影響で、海外から観光でここへ訪れたり、研究・勉強の一環で訪ねてくる外国人もいたんです」
それに相まって日本人の来館者の年齢層も変化を遂げ、若い世代の来訪が増えているのだそうだ。
「うちの娘はもうすぐ20代になるんですが、彼女と同じくらいの世代の人たちがたくさんいらっしゃるんです。でも、2001年以降のまんがって、うちにはほとんどないんです。なので、楽しいのかしら? と思うんですけど、彼らに言わせれば、昔のまんがが新鮮で面白いんだそう。時代が1周回って、“少女まんがの文化継承”が生まれているなと感じました」(大井さん)
さらには、「女ま館」の意志を継いで「私も女ま館をつくりたい」という担い手も現れた。現在、三重県多気郡多気町と佐賀県唐津市にて姉妹館が開設されている。
「あきる野とはまた特徴が異なるんです。多気町にある『少女まんが館 TAKI 1735』は、2001年以降の少女まんがも充実していて、さらにカフェを併設しています。一方の『唐津ゲストハウス 少女まんが館Saga』は、“歴史もの少女まんが”というテーマで蔵書をそろえていて、ゲストハウスも併設しているので、まんがを読みながら泊まることができるんです。それぞれ思い思いの工夫を凝らしていて、3箇所ともに担い手の個性があふれていますよ」(中野さん)