11月4日公開『桜色の風が咲く』で伝えたかったこと

『桜色の風が咲く』 配給:ギャガ ©THRONE / KARAVAN Pictures
11/4(金)シネスイッチ銀座、ユーロスペース、新宿ピカデリー他全国順次ロードショー

──映画『桜色の風が咲く』の脚本を手がけたきっかけはなんでしょうか。

「もともと監督の松本(准平)さんと知り合いで、“一緒に仕事をしたいね”という話はしていたんです。あるとき、“福島智先生(※)の講演会があるので行きませんか?”と誘ってもらったのが初めのきっかけです。

※福島智:映画『桜色の風が咲く』のモデルとなる人物。全盲ろう者にして、2008年に世界初の東京大学教授となる。日本のヘレン・ケラーとも称され、世界的な活躍を続ける。

 ただ、“先生の半生を映画にしたいから脚本を”と誘われたとき、難しいと返事をしたんです。“障がいを持つ人が苦労している”内容の話は、僕の作風とは違うからです。

 でも松本さんが、“違う描き方を考えましょうか”と言ってくれて、福島先生の本をいくつか読んでみたんです。すると、福島先生のお母さんの著書『さとし わかるか』(著:福島令子、朝日新聞出版刊)では“お母さんの目線”で当時の状況が描かれていました。このお母さんの視点だったら、“家族の物語”として書けるのではないかと思って、引き受けることにしました

──お母さんの視点で描かれていると、健常者も身近に感じ、感情移入しやすいですしね。脚本には、どんな思いを込めました?

「実は、この撮影はコロナが原因でいったん中断したんです。家から出られない日々が続いて、“当たり前のようにとれていたコミュニケーションがとれなくなるとは、こういうことなんだ”というのを、コロナ禍を通じて僕自身も実感し、それをもっと伝えたくなったんです。そこで、途中で台本を直して、コミュニケーションがとれない苛立ちや、人と人とのつながりがどういうものか、という思いを込めました」

──試写を拝見しましたが、クールビューティーなイメージのある小雪さんが、“お母ちゃん”になっていましたし、智役の田中偉登さんが、“本当に見えないのではないか”と思うくらい、抜群の演技力でした。テーマとは裏腹に、明るく楽しめる作品になっていますね。

「福島先生が明るい方なんです。福島先生が“作品で障がい者を描くと、なぜか壁にぶつかったり、叫んだりしているのですが、ああいう人はいないと思うんですよね”とおっしゃったんです。悲しいことばかりではなく、みんなそれぞれ生活があって、日常を送っているんですよね」

──この作品では、どんな取材をされました?

「福島先生やお母さんに会いに行ったり、盲学校を見学させていただいたりしました。生徒のみなさんは学校生活を楽しそうに送っていて、普通に友達同士で話していたり、“学校帰りにみんなでご飯を食べに行く”と話していたりしていました」

──映画では、主人公の智や友達が白杖を持たずに、普通に学校の階段を上り下りしているのに驚きました。事情を知らないと心配しすぎたりしがちですが、彼らにとってはそれが日常なのでしょうね。物語の中の「智とお母ちゃん」は、どうしてこんなに大変な出来事を乗り越えられたと思いますか?

「いちばんは、“家族だったから”だと思うんです。お母さんだけでなく、お父さんと兄弟もいたから、それが心の支えとなり、乗り越えられたのだと思います。自分の気持ちをきちんとぶつけ合う親子だったから、というのも大きいでしょうね。

 あと、お母ちゃんの性格がポジティブなのも理由だと思っています。実際に、母の令子さんは、関西のチャキチャキしたお母ちゃんという感じなんです」

──この“お母ちゃん”だからこそ、人生の壁を乗り越え、前に進んでいけたのでしょうね。この作品に限らずですが、横幕さんにとって、「面白い作品」とはどういうものだと考えていますか?

“そこで生きている人の人生が見える作品”ですね。作品の読者や視聴者が、登場人物の生き方、行動に共感できるのが、面白さだと考えています」

 この映画も、障がいを持つ人やそのご家族はもちろんのこと、健常者も共感や感情移入できる作品になっているのが魅力。たくさんの人に観ていただきたいステキな作品です。

◇   ◇   ◇ 

 「何かになりたい」と思ったとき、それ以外の仕事は「自分がやりたい仕事ではない」と断ってしまう人も多いかもしれません。しかし横幕さんは、「脚本家になりたい」という思いを叶えるべく、構成作家やリサーチの仕事にも精力的にチャレンジし、最終的には脚本の仕事に結びつくと信じた結果、それがチャンスにつながっているということを取材の中で感じました。

 それらの経験で取材力を身につけ、結果的に“横幕さんならではの作品の強み”になっていると思うと、「いろいろなことにチャレンジをする大切さ」を実感したものでした。

 次回は、漫画『ラジエーションハウス』誕生秘話や、横幕さんが面白いストーリーにするために心がけていることについて深掘りしていきます。

【第2弾インタビュー:人気漫画『ラジエーションハウス』の誕生秘話。原作者・横幕智裕さんが描いた、放射線技師のリアルに迫る

(取材・文/加藤弓子)

■映画『桜色の風が咲く』のStory

教師の夫と3人の息子とともに関西の町で暮らす母・令子。末っ子の智は幼少の頃に視力を失いながらも、家族の愛に包まれ、持ち前の明るさで天真爛漫に育つ。やがて令子の心配をよそに智は東京の盲学校に進学。親友もでき、淡い恋もして、高校生活を謳歌。たまに彼から届く手紙といえば、令子が苦心した点字翻訳に難癖をつけてくる生意気ぶり。
だが智は18歳のときに聴力も失ってしまう……。暗闇と無音の宇宙空間に放り出されたような孤独にある息子に立ち上がるきっかけを与えたのは、令子が彼との日常から見出した、ある新たなコミュニケーションの“手段”だった。勇気をもってひとつひとつ困難を乗り越えていく母と息子の行く手には、希望に満ちた未来が広がっていく……。

★『桜色の風が咲く』は、2022年11月4日(金) からシネスイッチ銀座他、全国順次公開されます→https://gaga.ne.jp/sakurairo/

【PROFILE】

◎横幕智裕(よこまく・ともひろ) 脚本家・構成作家・マンガ原作者。1970年10月1日生まれ。北海道出身。シナリオ作家協会シナリオ講座研修科43期修了。
2012年、『明日をあきらめない…がれきの中の新聞社~河北新報のいちばん長い日~』(テレビ東京)で、東京ドラマアワード2012単発ドラマ部門グランプリ・第8回日本民間放送連盟日本放送文化大賞グランプリを受賞。ドラマ「名建築で昼食を」(テレビ大阪系)は、2021年に日本民間放送連盟賞テレビ/ドラマ番組部門優秀賞した。
漫画原作を担った『Smoking Gun 民間科捜研調査員 流田縁』(2012年~2014年、集英社グランドジャンプ)は、フジテレビ系でドラマ化にもなった。現在、『グランドジャンプ』(集英社刊)にて『ラジエーションハウス』(原作:横幕智裕、作画:モリタイシ)を連載中。