──なるほど、海外コンテンツはキレイな反面、クリエイターの自由度が限られていると。日本のアニメはいかがですか?

「日本アニメは、1時間あたり制作費は約5000万円、数十人から数百人の規模でアニメを作ります。その分、当たるか当たらないかは置いておいて、クリエイターの作りたいものが作れる環境がある。ハリウッドだったら怒られるような表現でも、たとえ製作委員会方式(※)であっても出資者がケチをつけないパターンが多い。エログロOK、未成年の生死にかかわる描写もアリ、表現の規制はほぼない。すべてとは言い切れませんが、監督の頭の中にあるものを再現できるわけです。

 庵野(秀明)監督の『プロフェッショナル~仕事の流儀~』(NHK)を見た人はわかると思いますけど、アニメは最初に全部決めて作るのではなく、作っていく中で決まることも多い。それが結果的に、作品の面白さや海外アニメとの明確な差別化にもつながっていると感じています

※製作委員会方式:アニメや映画などの作品を作るための資金調達の際に、単独出資ではなく、複数の企業に出資してもらう方式のこと

──差別化が図れていて、かつ日本アニメは作品数も多いにもかかわらず、ハリウッドアニメの40%と日本アニメの25%の差にはどのような理由があるのでしょうか?

ユーザーに対するデリバリー(届け方)の問題だと思っています。年間300本は新しいコンテンツが生まれ、作られているコンテンツはとてもよい。それなのに日本アニメは、『Netflix』や『Amazon Prime Video』に“ただ置かれているだけ”の状態なんですよ。海外の小売店での日本アニメの扱いって『HENTAI』(※)のコーナーに置かれているものもあって、積極的に売り出されてはいない。いまだに好きな人がこっそり楽しむコンテンツという現状があります

※HENTAI:日本のアダルトアニメや成人向け作品の呼称。主に海外で用いられている言葉

 にもかかわらず、世界で25%のシェアを持っているのは、実はすごいことなんですよハリウッド映画の10分の1の制作費規模でも日本アニメは負けていない。ディズニーやソニーといった大企業といえど、必ずヒット作を出せるとは限らない。もちろん日本のアニメ制作現場の労働環境をよくすることは政策課題のひとつだと思うけど、だからといってお金をかけたり人を増やしたりすればよいコンテンツが生まれるという考えはあまりなくて。それよりもいろいろ作ってみた結果、たまたますごい作品が生まれるシンデレラストーリーのほうが健全だなと。なので、今いちばん考えるべきはコンテンツの広げ方なのかなと思います

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海外展開が盛んな日本のエンタメコンテンツは「VTuber」

──アニメ以外の日本コンテンツはどうでしょう。例えば、日本で人気のVTuberは海外において新しい経済圏になりえると考えられますか?

にじさんじ(※)やホロライブ(※)など、Vtuberの勢いはすごく感じます。昨年ニューヨークで開催された『Anime NYC』では、在ニューヨーク日本国総領事館とホロライブのコラボで出展していたり、VTuber達の基調講演ライブを見に来る人がすごく多かった。お客さんが会場に入りきらず、“この日のためにホロライブを見に来たんだ!”とパニックになっていましたよ(笑)。コスプレしている人もたくさんいましたし、ものすごい熱量を感じたんです

※にじさんじ:ANYCOLOR株式会社のバーチャルライバーグループ

※ホロライブ:カバー株式会社が運営するバーチャルYouTuber事務所

 以前、ニッポン放送の吉田尚記アナウンサーが、“VTuberは空気系(日常系)アニメを消した”とおっしゃっていたんですよ。要するに女の子たちが日常の中でワチャワチャして何も起こらないアニメを楽しんでいた人たちが、1時間~2時間と雑談しているVTuberを見るほうへ流れていった。海外でも同じようなことが起こっているんですよ。VTuberの台頭により、日本特有の空気系アニメの需要が減ったという変化も生じています

──VTuberが海外でも人気を得ているのは、にじさんじの「NIJISANJI EN」やホロライブの「ホロライブEnglish」など積極的に海外展開を行っている企業が多いのも理由のひとつとしてあるのかなと。

「それはありますね。最初にホロライブが海外展開を始めたのですが、それは運営元であるカバー株式会社代表・谷郷(元昭)さんが海外志向のある方だったから。現在の世界最高峰のYouTube登録者数を持つVTuberは、ホロライブEnglishのがうる・ぐら(約420万人)ですからね。海外市場規模の大きさを受けて、にじさんじの運営元であるANYCOLORも海外展開を始めて、ここ1年で約3割の売上が海外勢になっています

──VTuberは日本独自のコンテンツとして海外へ進出している一方、韓国の漫画コンテンツ「Webtoon」のように勢いを増している海外コンテンツも生まれています。「Webtoon」の登場が、日本の漫画コンテンツにどのような影響をもたらすと考えますか?

『Webtoon』は“海外の日本食レストラン”と同じだなと思っています。海外の日本食レストランって、ここ10年で約5倍程度になっているんですよ。’00年代前半は約2万店舗だったのが、’10年代後半のデータだと10万店舗を超えている。だけど、日本人が料理を作っているお店は1割もないそうです。アジア圏の人たちが、“日本食っぽいもの”を作っている。それはそれで美味しいと食べる人もいるWebtoonに限らず、NFTやアニメ、ゲームもそれと同じ状況になってきているとは感じています。“日本っぽいコンテンツ”を日本ではない人たちが作っているという感覚ですね。

 最近だと、制作費に100億円くらいかかった中国のゲーム『原神』なんかはすごく人気がありますよね。そういう意味でも、どんどん海外で人気が出る日本っぽいコンテンツが増え続けていくのだろうなと思っています

十分に世界で戦える日本エンタメ。では、これからさらに広げていくうえで何が必要になってくるのだろうか? 撮影/矢島泰輔