“塩”を加えるのは、“こうじ菌”を殺すため

──しょうゆを作るには、蒸した大豆と小麦にこうじ菌を足して、こうじを作ります。その次の流れを教えてください。

「その後に食塩水を入れて諸味(もろみ)を作ります。諸味は最終的な塩分濃度が16%ぐらいになるように調整します」

──海水の塩分濃度が約3.4%だから、かなり濃いですね。

「そうなんです。こうじ菌は湿気には強いんですが、水や塩分には弱いんです。だから食塩水と混ぜ合わせると死んでしまうんですよ」

──貴重な“ヤマサ菌”を殺してしまうんですか?

「はい。こうじ菌は原料になる大豆と小麦を食べて増えていきますが、原料を食べ尽くすと、今度は原料が分解されて出てきたアミノ酸などを食べてしまうんです。そうするとうまみ成分が飛んで、風味を損なってしまいます。だから、ある程度こうじ菌を生やしたら食塩水を入れて、こうじ菌の活動を止める必要があるんです。

 こうじ菌の活動を止めると、次は“乳酸菌”の発酵が始まります。乳酸菌はブドウ糖を食べて“乳酸”を生み出します。これが2つ目の発酵……、いわゆる“乳酸発酵”です」

──こうじ菌は小麦のでんぷんを分解してブドウ糖を作る。そのブドウ糖が乳酸菌のエサになるんですね。

「そうです。乳酸菌が乳酸を出すと、諸味全体が弱酸性になります。弱酸性だと酵母が働きやすくなるんですね。私たちがおいしいと感じる食べ物はだいたい弱酸性なんですよ」