子育てにまつわるさまざまなテーマをよりポップに発信したい

──今、コミュニティコーディネーターとして、具体的にどのようなことをしているのですか?

 coしぶやでは、施設や職員を支える裏方仕事から、渋谷区や外部との調整、イベント等の企画、SNSでの発信や広報、デザインの制作など幅広くやらせてもらっています。もちろん来所された方たちのお話を聞いたりもしますし、利用者さん同士や、当事者以外の人を巻き込んでつなげる、そういうハブのような役割でもあります。

遊びに来た子どもにも気さくに話しかける大和さん 撮影/矢島泰輔

──今まで違う業界で仕事をしていたからこそ、違う角度からの提案もできるし、いい化学反応が起こっていそうですよね!

 そうですね。今までの仕事は、広く多くの人に届けるということをメインにしていたと思うのですが、今は個々に、1対1の多様な関係性がたくさんあるという感じなんですよね。

 子育てにまつわるさまざまなテーマを、よりポップに・わかりやすく発信するというのは意識しています。そういった意味では、前職の経験も生かせているかなと思っています。

声にならない声を集めて、現場から社会を変えたい

──実際に子育て支援の現場で働くようになって、以前感じていた困っている人を救えない歯がゆさみたいなところはどう変化していますか?

 わざわざ会いに来てくれる人がいたり、直接悩みを聞いてより具体的なサポートができるようになって、以前よりは、力になれている感覚というのはあると思います。

 それに、自分自身が日常生活で感じる育児や社会にまつわるモヤモヤやストレスを、仕事に反映することができるのもありがたいです。

女性が「妻」や「母」になることが、こんなにも心細いものだったとは……。当事者でない人々にも知ってほしい現実です 撮影/矢島泰輔

 この間も「育児も家事もどんなに頑張ってもそれを誰も知らないし、誰も褒めてくれない!」みたいな孤独な悲しみを感じていたときに、coしぶやのInstagramで「自分で自分を褒め大賞」という企画を立ち上げてみたんです。

「あなたが自分で自分を褒めたいと思ったことを教えてください」と募集をかけたら、「3姉妹をワンオペ育児してる」「コロナ休園1か月なんとか乗り切った」「双子が無事に3歳を迎えた」「1歳過ぎても夜泣きに毎日対応してる」「夜中に起こされて遊びに付き合ってあげた」など、みんなの声にならない本音がたくさん上がってきました。

Instagramで行った企画「自分で自分を褒め大賞」。たたえ合ってみんなでよりよい社会をつくっていきましょう! 提供/coしぶや

──そういう言葉を発することができる場所があるっていうだけで、すごく救われます。

 ですよね。その声と返答をみなさんにシェアしたら、お互いに元気が出た、勇気づけられたと言ってもらえて。それをまとめて、「みんな優勝!」と書いて施設内にも貼っています。そんなふうに、友達やパートナーにも言えないような悩みをここだったら吐き出せて、みんなで元気になるみたいなことができるって、いいなあって。

 coしぶやにいるおかげで、普段の生活でひとりで抱えて悶々(もんもん)としてしまうことも、みんなで「そうだよね」と言い合える。声を大きくすることで、行政にも利用者の声を届けやすくなるし、立場的にも届けやすい場所にいる。よりみんなが生きやすい・暮らしやすい社会へ、少しずつですが近づけている実感があります。

──今後やりたいことも、どんどん出てきているのでは?

 もう、やりたいことはたくさんあるんです(笑)。

 当事者(子育て中の人)だけで、「つらいよね」「そうだよね」と言い合えるのも大事だけど、次のステップとしては、いかにその周りの人、当事者じゃない人に興味を持ってもらえるか、この現状を知ってもらえるかが大きな使命なんじゃないかと感じています。

木製の遊具を使ってシュールなポージング♪ 撮影/矢島泰輔

 知ってもらうことで、アクションを起こしてくれる誰かが増えていって、それが社会の未来を変えていくと思うので。

 それと、今は施設を利用する人の多くが母親なので、少しずつ増えてきてはいますが、父親の育児参加が「普通」になってくれたらいいなと思います。施設だけでどうにかできる話ではないですが、引き続きイベントや発信も行っていきたいです。

絶賛子育て中の2人、熱のある話はとまりません! 撮影/矢島泰輔

──私も小さな子どもがいるんですが、渋谷に出かけるときは「何かあったらcoしぶやに行けばいい」と思えるので、小さな心の支えになっています。

 うれしいです。いつも言っていることなんですけど、ここだけが安全地帯じゃなくて、電車に乗っても、職場に行っても、子育てをする人にとって安心して過ごせる場所であってほしい。そんな社会をつくれたらと思います。

 街の人からちょっとひと声かけてもらえるだけでも、子育て中の私たちって、なんとか今日を頑張れたりするじゃないですか。

独身街道をひた走る編集担当にとっては未知の世界でしたが、社会問題に目を向けるいい勉強になりました。たまにはこんな感じで「ぐで~ん」としましょ! 撮影/矢島泰輔

──ちょっと気にしてくれただけでも、本当に救われますよね。

 そうなんですよね。だから、一見、子育てとは関係なさそうな職業や団体の方とも交流したいですし、かかわってもらって知ってもらうことで、少しずつ未来が変わっていけばと思っています。だって、本当は子どもが生きる未来って、私たちの未来でもあるんですよね。弱い立場の人が生きやすい社会は、多くの人にとっても生きやすい社会のはずです。そこにつなげていくためにも、「(当事者)じゃない人」に、子育てに関するさまざまな課題を知ってもらって、みんなでよりよい世界に変えていきたいなと思っています。

やさしい世界をつくりたい

 実は、2歳の子どもを育てながら、仕事を続けている筆者も、大和さんの存在に救われているひとり。

「子どもが電車内でぐずってしまって、それだけで冷ややかな視線が飛んでくる」「こんなに肩身が狭くて、外出も気軽にできないなんて想像していなかった」「妊娠から数えればもう3年以上、自分のことは後回し。社会から取り残されている気がする」

 今までは、誰にも話すことなく、ぐっと飲み込むことが多かった子育てに関するモヤモヤを、言葉にしようと思えたのは、ほかでもない大和さんのおかげでした。

「わかるわかる」「もっと言葉にしていいよ」という言葉をかけてもらうたびに、悩んでいるのは私だけじゃないんだと実感し、言葉にして感じていることをシェアすることの大切さに改めて気づかされました。

 音楽、ラジオ、デザイン、子育て。職種や立場が変わっても、大和さんがつくろうとしている世界は、一貫して、やさしい世界そのもの。

 子育てをする人の悩みに寄り添いながら、渋谷の真ん中で、よりよい未来をつくろうとする大和さんの挑戦は、まだ始まったばかりです。

(取材・文/茂木雅世、編集/福アニー)

【Information】
●coしぶや
渋谷区子育てネウボラ内にある、子育て支援センター。2階は予約不要のアトリエやプレイグラウンド、大人1人でも使えるカフェがあり、渋谷区外の方でも利用可(日曜はカフェのみ区外利用可)。3階は予約制の子育てひろばで、渋谷区在住の方のみ。 ※取材日時点

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