ニューヨークの上空で見た、命がけの撮影

「ウルトラクイズでニューヨークへ行って、摩天楼の上をヘリコプターで飛ぶ」

 そんな途方もない野望が、まさか実現するとは、正直思いませんでした。

 どんなに無理に思える野望でも、とりあえずは抱いてみるものです。

 さて、ニューヨークでの決勝の当日、ホテルからヘリポートへ移動した私。

 第10回のウルトラクイズは、唯一、旅の途中で挑戦者を北米ルートと南米ルートに分けたため、私は南米ルートから誰が勝ち上がってくるかも知りません。たった1人、カメラマンとともに、ヘリコプターに乗り込みました。

 いよいよ、ずっと憧れていた、摩天楼上空へのフライトです。

 しかし、実際に飛んでみたら……。

「こ、怖い!」

 何が怖いのかというと、迫力ある映像を撮るために、カメラマンが座っているすぐ横の扉が全開なのです。私の席のサイドも、全開ではありませんが窓を開けているので、風がビュービュー入ってきます。

 その状態で、エンパイヤステートビルのすぐ間近を通り過ぎたり、摩天楼を見下ろす絵を撮影するために、機体を斜めに傾けて、らせん状に旋回しながら降下したりするのです。

 私は高所恐怖症ではありませんが、高いところが得意というわけでもありません。

 普通に飛んでいる分には“天下を取った”ような気分でしたが、時折「あっ、このヘリ落ちる、死んだ」と思う瞬間があり、かなり怖かったのを覚えています。

 シートベルトを締めている私でも怖いのに、あろうことか、カメラマンは(見間違いでなければ)、ヘリコプターの機体の下についている脚(あし)の部分に自分の足を乗せ、身体のほとんどを外に乗り出し撮影している瞬間がありました。

 もちろん命綱はつけていましたが、オーバーでなく命がけの撮影です。

 そんな姿を見て、私は「ああ、この人たちは、ファインダーをのぞくと怖いモノがなくなるのだな……」と、つくづく思いました。

 コンプライアンスなどという言葉がない時代のテレビ番組は、本当に無茶をやっていたと、今にして思います。

 テレビで見ていたときは、決勝前のこのヘリコプターの場面を「カッコいいなぁ」と思って見ていました。しかし、実際に体験すると、ヘリコプターを上から撮っている絵や、摩天楼を俯瞰(ふかん)する絵が、すべて、カメラマンがヘリコプターから撮影しているのだという当たり前の事実に、改めて気づかされたのでした。

 今なら、ドローンで、もっと大胆な絵を撮ることが可能なのかもしれません。

 しかし、映画でCGを使わないアクションシーンが見直されているのと同様に、当時の手作りの映像にノスタルジックなロマンを感じてしまうのです。

(文・西沢泰生)