①リアルな描写とデフォルメされたアニメ的表現の融合

 まず、モルモットが車になった愛らしい“モルカー”について触れないわけにはいかないでしょう。老若男女を惹(ひ)きつけるこのキャラクターの独自性は、リアルなモルモットの特徴と、デフォルメされたアニメ的な表現の融合によるものです。音やさまざまな素材を複合的に組み合わせて映像を構成する、アナログな手法だからこそ生まれています。

 この手法は一般的に“ストップモーション・アニメ”と呼ばれています。ストップモーション・アニメとは、アニメーターがパペットを少しずつ手で動かしながら1コマずつカメラで撮影し、つなげて映像にする手法です。『モルカー』の場合は1秒のシーンに24コマの画が必要で、制作には莫大な手間と時間がかかります。

 また、この手法は大きく3つの方法があり、関節などがついた可動する人形を使った“パペット式”、表情の違う頭部やポーズの異なる手足を別に作り、パーツを変えることで、よりアニメ的な動きを人形で表現できる“パペトゥーン式”、人形の形を変えられる粘土を使った“クレイ・アニメーション”に分類されます。

 “パペット式”には、ロマン・カチャーノフ監督による『チェブラーシカ』があり、“パペトゥーン式”が使われた作品には、ティム・バートン監督が原案と制作を担当した『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』といった作品が。“クレイ・アニメーション”には、『ニャッキ!』(NHK)や、イギリスで制作された『ひつじのショーン』といった作品があります。

 こうしたパペットを使ったアニメ作品の魅力について、“素材の質感を生かした温かみ”が着目されることは少なくありません。しかし、モルカーの魅力の本質は、本物のモルモットの体温を想起させるような、フェルト性のモフモフな毛質だったとはいえないと思うのです。

『モルカー』に登場するキャラクターは、原作者である見里朝希(みさと・ともき)監督(※DS編の監督は小野ハナ。今作で見里監督は原案とスーパーバイザーを担当)がご家族で飼っているモルモットがモデルになっています。モルカーたちの「プイプイ」という鳴き声はこの子のものを使っており、さらに実在のモルモットが口元をもぐもぐさせる動きも反映されるなど、リアルな動作が取り入れられました。モルカーは“車”でありながら、トコトコと歩きますが、これはモルモットがお尻をフリフリする動きを表現するためと言われています。

『PUI PUI モルカー』 第1話「渋滞はだれのせい?」

 さらに、柔らかい羊毛フェルトを素材にして作られたモルカーは、手で押すなどして形に変化をつけることができるため、表情で感情を伝えるアニメ的な要素が加わっています。こうしたコミカルな動きとリアルさとの間に生まれたギャップが、モルカーたちのけなげな一面をより引き立てました

 『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』の監督を務めた小野ハナ氏も、アニメカルチャーメディア『Febri』における制作インタビューにおいて〈セリフがない分、表情や小さな動作がすべてなので、そこでどれだけ演じられるかというのはポイントだと思います。(中略)フェルトをつぶしてみたり、持ち上げてみたりと、少し触っただけでも表情が豊かに出てきます。〉と語っています。

 第1期にあたる『PUI PUI モルカー』でも制作スタッフとして参加した小野監督でしたが、見里監督からバトンを受け取った新シリーズ『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』においても、モルカーの細かな動きを表現するために、撮影やセットの調整、スタジオの温度やアニメーターとの連携部分も、細部までこだわっていたことが伺えます。