最後に:不自由さや制約が生んだ『モルカー』の魅力

 最後に、パペット・アニメーションにおける作品としての強みを振り返っておきたいと思います。2016年に公開された『モアナと伝説の海』のように、近年の3DCG技術なら、パペットの素材感を高い再現度で表現することが可能です。そうしたCG技術がある中で、なぜあえて、膨大な時間と手間をかけてパペットアニメを撮る必要があるのか。今回取り上げた『モルカー』は、そんな疑問を払拭できる作品だったと言えるでしょう。

 見里監督は、『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』を取り仕切る小野ハナさんに、モルカーの表情を過剰に付けすぎないようにアドバイスをしたそうです。これは、あえて表現に制限を設けることが、作品によい影響を及ぼすことを感じているからこその助言だったと感じます

 ストップモーション・アニメ映画の『ファンタスティック Mr.FOX』や『犬ヶ島』を制作し、多くの実写映画でも知られるウェス・アンダーソン監督は、ユリイカ 2018年6月臨時増刊号『ウェス・アンダーソンの世界』においてこう語っています。

〈どんなやり方にもコントロールのリミットはあると思うよ。そしてそれを望むべきなんだ。(前略)アニメーターたちはめいめい自分の視点を持ち込むから、ストップモーション撮影のセットでも同様の偶然が起こる。ただ、ものすごく“ゆっくり”起こるんだけどね〉

 CGを使ったり、絵コンテを描いてキャラクターや背景を自在に動かせるアニメーションと違い、ストップモーション・アニメには物理的な制限があり、時間的にコストがかかります。ですが制約がある中で、時間をかけて作品と対話していくことで、表現者が何らかのひらめきを得て、それが独創的な表現に至っていることが間違いなくあると思うのです

(文・石水典子/編集・FM中西)

【PROFILE】

◎見里朝希(みさと・ともき) 東京都生まれの映像作家、アニメーション監督。東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。 主にストップモーション・アニメーションによる映像制作を手がける。大学院在籍時に発表した『マイリトルゴート』(18年)はSHORT SHORTS FILM FESTIVALで優秀賞・東京都知事賞をはじめ、国内外の映画祭で多数の賞を受賞。‘21年放送開始『PUI PUI モルカー』の生みの親。

◎小野ハナ 岩手県生まれのアニメーション作家。東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。 『澱みの騒ぎ』(14年)で大藤信郎賞を受賞するなど、美術作家としても活動中。‘22年10月開始の『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』において、監督を務める。

【参考文献】

◎『夜想34 特集パペット・アニメーション』(1998年、ペヨトル工房)

◎『ユリイカ6月臨時増刊号 <決定版>ウェス・アンダーソンの世界――『犬ヶ島』へようこそ!』(2018年、青土社)

◎『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』小野ハナ監督に聞く新シリーズ制作の裏側 より(Febri)