人生を変えた決勝戦──はじまりのとき
そんなシーンを撮り終えると、私はふたたび目隠しをさせられて待機になりました。いやはや、この待ち時間がとにかく長かった。
考えてみれば、さっき見上げたヘリコプターに対戦対手が乗っていたとすれば、ヘリポートに戻り、ボートに乗ってリバティ島に来るのですから、待たされても当たり前です。
オンエアを見ると、まるでリバティ島にヘリポートがあるようにうまく編集されていますが、実はその間に、とんでもなく長い待ち時間を挟んでいるのです。
この待ち時間。私は緊張から何度もトイレに行きました。そのたびに目隠しした私の手を引いてくれたスタッフさん、さぞ、面倒だったことでしょう。
トイレの中だけ目隠しを外して用を足し、また自分で目隠しをしてから、トイレの外で待つスタッフに手を引かれ解答者席へ……。そんなことを4~5回は繰り返したと思います。
やがて、どうやらすべての用意が整ったようで、「西沢さん、目隠しを取ってください」とようやく声がかかりました。
自ら目隠しを取り、言われるままに、ふたたび早押しハットをかぶります。
いよいよ、始まるのか。
前方の司会席には、すでに留さんがスタンバイしています。
そのまま数分間。……いや、もしかしたら1分くらいだったのかもしれません……。時が止まり、誰も何もしゃべらない沈黙が続きます。
私は、周りの明るさに目を慣れさせようと瞬きをしたり、少しだけ目を閉じたり。
そんなことをしていると、突然、留さんが私の後方に目線を向けて、つぶやくように言いました。
「今、やってきました」
その声にうながされて振り向くと、そこにはキャスターつきの旅行用トランクを引きずりながらこちらにゆっくりと歩いてくる森田孝和さんの姿が。
実は、森田さんとは日本でずっとクイズを楽しんできたクイズ仲間。プライベートでは『タカちゃん』なんて呼んでいました。
そのクイズの強さは、わかりすぎるくらいにわかっています。
実力からして、彼以外が南米ルートから勝ちあがってくるとは、到底思えませんでした。
目が合うと、タカちゃんはニヤリと微笑んで口を開きました。
「オレだよ!」
「やっぱり来ましたね」
「当然!」
台本なしの素のやり取り。
こうして、第10回ウルトラクイズの決勝戦は、“そのとき”を迎えたのでした。
その後の早押しクイズの時間。
それは、私の長い人生の中で、もっともテンションが上がり、もっともアドレナリンが爆発した時間。
結果は敗退しましたが、“その後の人生を生きるうえで、自分に「自信」を持たせてくれた経験”といっても過言ではありませんでした。
(文・西沢泰生)