気がつきにくいメンタルダウンへの入り口と対処法

 ひとりの上司との出会いによって、生き方には複数の道があることに気がついたわびさんは、それまで12年間勤務した自衛隊を35歳で退職。その後2度の転職を経て、現在では、家族との時間や趣味など、自分が心から楽しいと感じる瞬間を大切に、日々を過ごしています。

──ご自身の経験を振り返ったときに、メンタルダウンを防ぐためにやっておけばよかったということはありますか?

細かい道は気にせずに、自分が進みたい、大まかな方向(目標)を決めることです。それが決められれば、その方向に向かって進むルートは、何通りも考えられるので、ひとつのルートが行きづまったとしても、別のルートを考えればいいだけです。それに自分の目指す大まかな方向に合わせて、環境も選べるので、人間関係に振り回されずにすみます。

 自衛官だったときは、“出世コース”という、ひとつの道しか考えていなかったと思います。だから、理不尽なことにも耐えました。結局、耐えきれなくなって、挫折したときはダメージが大きく、完全回復するまでに2年以上がかかりましたけど……」

──目標の決め方について、詳しく実践方法もお聞きしたいです。

大切なのは人生の“戦略”(大まかな方向を決める)を持つこと。そうすれば、その方向へ向かうための道=“戦術”は間違ってもカバーできますし、危機的状況にはなりません。

 例えば、私の場合は“家族(子ども)との時間”や“趣味を楽しめる生活”。これを、人生の中心に置いています。自衛隊にいるときは、誰かが決めた“正しいこと”を選んできましたが、今は自分が感じる“楽しいこと”を選ぶようになりました。

 自分で野菜を作り、鹿やイノシシを狩る。そういった自給自足の生活に、最近はハマっています」

 自衛隊を離れ、丸5年がたつ。過去のつらい出来事も、最近では鮮明に思い出せないことが増えてきたという。自給自足の生活や、家族とのふれあいが、過去の傷を優しく癒しているのかもしれない。

──責任感の強い人は、自分でもメンタルダウンの入り口に気がつかず、迷い込んでしまうこともあると思います。そうならないための方法を教えてください。

「もうひとつ、メンタルダウンにならない施策として挙げるなら、“自分が許容できること”と“許容できないこと”を明らかにすることです。こうした考えを、自分の人生設計にも取り入れていくのはありだと思います。

 私の例をわかりやすく挙げると、自衛隊での“超過勤務とパワハラ”は、“家族との時間を重視したい”という方向が明確にある私にとって、許容できることではありません。

 以前であれば、よくわからない精神論でごまかして、我慢していましたが、今の私だったら、パワハラなどの相談窓口に連絡するなど、何らかの手を打ちます。また転職を考えるかもしれません。大まかな方向さえ外れなければ、ときには逃げるのも大事です。

 このように、いくつもの選択手段を考えられるようになれば、精神的に非常に楽になると思います。そのためには、普段からセーフティネットを含めて、いくつかの選択肢を持っておくのがよいでしょう

現在は趣味として野菜作りにハマっているという 写真提供/わびさん
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 次回後編は、戦略的な撤退“正しい逃げ”の見極め方や、“完ぺき主義”や“空気を読みすぎ ”など、タイプ別のメンタルケアや対処法を伺います。

(文・取材/西谷忠和、編集/本間美帆)