最後の1問──早押しボタンを押し遅れた理由は

 その後も正解を続けて、私が逆転。一気に勝負を決めるかというときに出たのが、次の問題です。

「問題 アイヌの人たちが、チロンヌップ“山の小さな獲物”と呼ぶ動物は、いったい何でしょう?」

 初めて聞く問題で、答えは知りませんでした。しかし、この問題を聞いた瞬間、私の頭の中に、子どものころに見たアニメ映画『太陽の王子 ホルスの大冒険』の、登場人物の子どもが弓矢を構えてウサギを追いかけている場面が浮かんだのです。たしか、あの映画はアイヌの伝承をモチーフにしていたはず……。そうか! 答えはウサギだ!

「勝負、西沢さん」という留さんの声に促されるように勝負をかけた私は、早押しボタンを押して、「ウサギ!」と回答。

 しかし、残念ながら不正解を告げるブザー音が……。答えは「キツネ」でした。

 余談ですが、帰国後、ウルトラクイズに行っていた間の新聞記事の切り抜きをしていたら、たかはしひろゆきさんの絵本『チロヌップのきつね』に関する記事を見つけました。ああっ、この記事がウルトラクイズ参加前に新聞に出ていたら……。

 ここでまた、流れが森田さんに移ります。決勝戦の早押しの間に、勝利の女神があっちについたりこっちについたり。勝負というのは面白い。

 そして、森田さんがふたたびリーチをかけ、運命の最終問題。

「問題 17世紀に、インドムガール帝国の皇帝、シャー・ジャハーンが……」

 ここで早押しボタンを押した森田さんが、正解の「タージ・マハール!」と回答して、優勝を決めました。

 この問題、ムガール帝国という単語を聞いた瞬間に、私の頭に浮かんできたのは「セポイの反乱」でした。問題文で17世紀って言っているのに、違う時代の答えが浮かんでしまうあたりは、私の歴史問題への弱さが出ています。

 さらに続く「シャー・ジャハーン」という単語で、「あっ、タージ・マハールだ」と思い直しましたが、今度は、「お妃の名前がムムターズ(タージ)・マハルだから、タージ・マハールは言葉がかぶるので出題しにくい。これは、タージ・マハールがある都市はどこ?(アグラ)までいくか?」と深読みしてしまったのですから、もう手遅れ。

 あの短い問題文の間に、ふたつも“読み違い”をしていたのですから、押し負けるのも当然のこと。敗退しても仕方ありません。

 ちなみに問題文の続きは、「お妃(きさき)の死を悼(いた)んで作ったお墓をなんというか?」でした。

 こうして森田さんが優勝。私は準優勝となりました。

 今にして思うのは、森田さんが最初にリーチをかけた9対2のとき、留さんが「西沢さん、あきらめるな」と言ってくれたことで、一方的なスコアにならず、見ごたえのある決勝戦ができたことが本当によかったということです。

 もし、あのまま負けていたら、北米ルートで敗退したチャレンジャーに顔向けできなくなるところだったし、私自身も不完全燃焼で終わるところでした。

 オンエアでは、優勝した森田さんのインタビューが終ったあと、回答者席でポツンと独り座る私が、自由の女神のほうを振り返って、小さく敬礼をするシーンが映っています。

 あれは、初めてウルトラクイズを見た日から、ずっと夢を見させてくれた自由の女神へ、心の中で「女神さん、今日までありがとう」と、お礼を言ったのです。

 誰も見ていないと思ったのに、まさか、カメラにおさめられていたとは……。しかも、その映像をオンエアで使われるとは……。

 さすが、超一流のカメラマン。撮り逃がしはしませんね。テレビ放送を見て、「撮られていたのか……」と声が出てしまったのでした。

(文/西沢泰生)