──多感な学生時代に、つらい経験をされていたんですね。

「かなりストレスでした。自分にとっていちばんつらかったのが、食べられないという事実ではなく、孤独感でした。骨折や風邪のようにギプスやマスクをしているわけではないので、周りからも理解されない。このまま食事への恐怖心が拭(ぬぐ)えず、将来、仕事や恋愛の場面でうまくいかなかったらどうしようと不安に思いながら、学生時代を過ごしていました

──症状が改善し始めたのはいつごろからだったんですか?

「純粋に食事を楽しめるようになったのは、22~3歳くらいだったと思います。20歳のとき、“100%の状態じゃないけどなんとか食べられそう!”となり、現在は特にストレスなく外食もできるようになりました」

──克服されたときは、どんな方法をとったんでしょう?

まずは心理面を見直すことから始めました。会食恐怖症の克服と聞くと、“頑張って食べてトレーニングする”という印象があるかもしれませんが、部活動でのトラウマだけでなく、そもそもの自己肯定感の低さや自信のなさが、人前で食べることへの恐怖につながっているとわかったんです。

 それからは自分に自信を持てるよう、“なんでこれしか食べられないんだ”ではなく、“今日はこんなに食べられた!”と、自分をほめてあげるようになりました。友達とのご飯も積極的に行って、“食べる”ことのハードルを少しずつ低くしていったんです。大学時代のアルバイト先の人にも自分の症状を伝えたら理解してくれて、徐々に人と一緒に食事ができるくらいに改善していきました」

原因の第1位は「給食」。周りからの理解が、症状克服に必要となる

 自己肯定感の向上と、周りからの理解を機に、会食恐怖症を改善した山口さん。大学卒業後、自身と同じような悩みを持つ人々を助けるべく、『会食恐怖症克服支援協会』を立ち上げた。会食恐怖症に悩む人には、どんな悩みがあるのだろうか。

──協会に相談に来る方はどんな方が多いのでしょうか?

“人前だと食べられない”という方からのご相談がほとんどです。ただ、中には人前だけでなく家でも食べられないという方もいて、その場合は会食恐怖症だけでなく、摂食障害の部類になってきます。他にも、吐くのが怖い“嘔吐(おうと)恐怖症”も一緒に併発している状態の人もいます」

※嘔吐恐怖症:嘔吐に対して、強い不安感・緊張感を抱く症状。嘔吐恐怖症に悩む人の中には、道にある吐しゃ物を見るのが怖く、家から出られなくなる人もいるという

──発症する年齢に傾向はあるんですか?

「思春期で、まだストレス耐性が強くない学生が発症しやすいといわれています。なかでも小学校の給食での経験が要因になることが多いです。“食べきれなくて怒られた”とか、“学校に居残りで食べたのがつらかった”という経験ですね」

──現在の教育現場でも、“残さず食べなければいけない”という風潮なんですか?

「文部科学省が出している、『食に関する指導の手引き』には、《偏食により食事量が極端に少ない、反対に特定の食品の食べ過ぎにより成長や栄養素の摂取状況に問題がある児童生徒を抽出し、個別的な相談指導を実施する》と書いてあり、児童ごとに食べる量や内容を考慮すべきという規定はあります。ただ、その事実を理解している人がそこまで多くありません。

 また、教育現場にいる人たちは、若くても20~30代。幼少期に“残してはいけない”という教育をされてきた人たちなので、それが普通の教育だと思っているという現状があります」

──自分も昔は、“絶対この量を残さず食べなさい!”という教育を受けたのを覚えています。

「どれだけ頑張って症状を改善しようと思っていても、周りが理解していないとうまくいかない。講習で教師の方にプレゼンすることもあるのですが、食べられない子どもがいたら優しく言葉を投げかけてあげて、安心感を与えてあげてほしいという話はよくしています」

『月刊給食指導研修資料』というメディアにおいて、教育現場への情報発信を行っている