会食恐怖症になったとき、身体には何が起こっているのか?
最後に、私の症状を例に会食恐怖症の解決方法と心構えを聞いた。
──私は、家だとかなり食べるんですが、人と一緒にご飯を食べると、嚥下力(※)が途端に下がってしまいます。これは思い込みなのでしょうか?
※嚥下力:物を飲み込む力のこと
「思い込みではないですね。会食恐怖症の症状で嚥下力が落ちる人は、身体の状態でいうと交感神経が優位になっている状態です。
人間には、緊張したり活動しているときに活発になる“交感神経”と、夜間やリラックスしているときに活発になる“副交感神経”の2種類があるのですが、普通の人は食事中はリラックスしている。つまり“副交感神経”が優位な状態なので、物を飲み込むことに意識が向くことはあまりないはずなんです。
ただ、緊張状態だと交換神経が優位になり、筋肉の動きが悪くなる。すると、のどの筋力が急激に落ち、身体の構造的に飲み込む動作が難しくなります。交感神経と副交感神経のスイッチは無意識に切り替わるので、自分ではなかなか意識しづらい状況に陥(おちい)ってしまいます」
──精神面の不調が、そのまま身体にも現れてしまうんですね。
「そのため悩みを相談するときは、なぜ食事中に緊張してしまうのか? 緊張の要因はどこにあるのか? という部分をヒアリングし、要因を一緒に、ゆっくり解決していく方法を模索していきます。
ちなみに、中西さん(筆者)は外で食べるとき何が気になっていますか? 例えば人の視線が怖いとか、吐くのが怖いとか」
──うーん……。公共の場で吐くのは嫌だなと思いますが、人の視線はそこまで気にならないです。
「なるほど。昔、給食のときに食べられなかったことがトラウマになっているとかは?」
──食べられなかった経験はあります。ただ、給食のおばちゃんがすごく優しかった覚えがあるし、あまりトラウマになっている自覚はないですかね……。
「体格的にガッシリしているタイプだと思うのですが、“その体格なのに食べないのかよ”と周りに言われることへの恐怖とかはあります?」
──あーそれはあります! この体格だし、実際に家ではかなり食べるんですが、“これを食べきれなくてガッカリさせたらどうしよう”という謎の強迫観念はありますね。
「残せないから、口に詰め込まないといけない。でも飲み込めないから食べられない。の連続って感じですかね?」
──まさにそれです。周りにからかわれたくない→食べなきゃいけない→でも食べられない→また周りにからかわれる……の無限ループです。
「自分でも言っていたように、“絶対残してはいけない”という気持ちが人一倍強いと思うんです。その考え方は会食恐怖症の人に本当に多いです。もし改善を目指すのであれば、ちゃんと食べなきゃという気持ちを手放していく行動が大事になります」
──食べなきゃいけない気持ちを手放す?
「会食恐怖症の克服を目指すうえで、とにかく頑張って食べるという目標を立ててしまうと、食べられた、食べられなかったという2軸だけで自分を評価することになります。ただ、人間にはホメオスタシス(※)という機能があって、無理に食べようとすると、身体は無意識に反発を起こして、前の自分に戻ろうとします。そして結局食べられず、自分を責めてしまい、克服へのメンタルが削がれるという悪循環が起こってしまいます」
※ホメオスタシス:恒常性。生物が身体の内部環境を一定の状態に保ちつづけようとする傾向のこと
──しっかり段階を踏んで改善していく必要があるんですね。
「“食べきらなければいけない”ではなく、“残しても問題ない”という意識と経験をどれだけ積んでいけるかが、会食恐怖症改善のための大きな分かれ道になります。例えばお店で食事を頼んだら、今日はふた口食べられたら合格、もし食べられなくても問題ない。ということを何度か繰り返すうちに、自分の中での“食べられない”の基準がだんだんと上がっていきます」
──とにかく食べる努力をするべき、だと思っていたので、すごく心が軽くなった気がします。
「人間一人ひとり、身体の構造も趣味・嗜好も何もかも違います。だから、嫌いなものがあったり、量を食べられなかったといって、気にする必要はまったくないです。特にいまは忘年会・新年会シーズンで、会食恐怖症に悩んでいる方にとっても悩みの多い時期だと思います。
そういう場であっても、“食べなくてもいい”という気持ちで臨んでほしいです。そして、そういう会食の場に頑張って行こうと思っているのであれば、自分が下したその決断を評価してほしい。自分を認めてあげて、“残しても問題ない”という意識づけをすること。できれば周りの人にも協力してもらうことで、解決への道が開けてくるはずです」
(取材・文/FM中西)