そもそも人間とは「ずっとボケ続けている存在」
──お話を伺うにつれ「笑い」の深さを感じます。
「そう。私も長年にわたって研究していますが、人がなぜ"笑う"という行動を求めるのかは、正直まだわかりません。生理学・人間行動学・社会学の観点でも調べていますが、なかなか腑(ふ)に落ちる理由がないんですね。
そもそも人間って不思議なもので、ずーっとボケ続けているんですよ」
──ボケ続けている……?
「そう。不思議ですよ。例えば、今あなたも私も服を着てますよね。着衣するのが常識だから着ているわけですが、そもそもなぜ服を着なくちゃいけないんでしょう。犬も猫もチンパンジーも裸なのに、人間だけがなぜか“裸は恥ずかしい”と感じますし、全裸で外を歩いたら逮捕されるんですよ」
──確かに(笑)。「服を着る理由」なんて考えたこともなかったです……。
「四六時中ずっと布を身にまとうなんて、他の動物から“いや何してんねん”ってツッコまれますよ(笑)。生まれてから、死ぬまで……いや死んでも棺桶の中で服着てますからね。
二足歩行もおかしいですよ。数十キロの体重をたった二十数センチの足で支えている。それで空いた手を使って、いいことも悪いこともする(笑)。動物界から見たら“前脚どうなっとんねん”って話ですからね」
──(笑)。
「排せつを恥じらうのも不思議ですよ。犬なんて、あんな誇らしげにマーキングしてるのに(笑)。“無防備になるがゆえに防衛本能が働いている”という理屈はあるかもしれませんが、それだけでは説明ができない」
──そういわれると、人間って本当におかしな生き物というか。
「そう。だから人間って大きな"ボケ"なんですよね。地球の主人公みたいな顔をしてるけど、他の動物から見てみると“自分ら何してんねん”って言われますよ(笑)。
他の動物は食べて、寝て、走って、一所懸命生きているのに、人間だけが“なんで生まれてきたんやろ”とか“なんで死ぬんやろ”とか、いろいろ考えてしまう。そもそも人間は、“おかしいなぁ”、“変やなぁ”という感覚に何度も出合う生き物なんです。
"おかしい"という言葉の意味は、Strange(変な)/Funny(滑稽な)/Interesting(興味深い・魅力的)に細分化できますが、人生にはそのどれもが詰まっています。“不思議だけど笑えるなぁ”とか“アホやけど、魅力的で素晴らしいなぁ”とかね。
そう考えると、人間学の分野を研究する立場としては“おかしみを感じる”という行為は人生そのものなのかな、とも思いますね」
──なるほど。考えれば考えるほど「笑う」って、本当に奥が深くておもしろいテーマですね。
「そうですね。人を笑わすって本当に複雑ですよ。私はあくまで研究者の立場であり、舞台には立てませんが、そんな深いテーマに考え抜いたネタで立ち向かう芸人さんは本当に素晴らしいです。M-1グランプリも“なぜ笑うのか”という根源を考えながら見てみると、また違った楽しみ方ができるかもしれません」
(取材・文/ジュウ・ショ、編集/FM中西)