ちょっと立ち止まりたいときは……すぐ海外!

──2022年でデビューから13年です。10代から30代にかけて芝居への取り組み方や表現の仕方で変わったこと、振り返ってみて転機と思った出来事はありますか?

 たとえば『ケイコ 目を澄ませて』に出演して、言葉の重要性をすごく考えました。もちろん手話でも話しますけど、口語としてのセリフは二言しかなくて。でもこの映画、伝わると信じているんですよね。

 私の好みになってしまうんですけど、しゃべりすぎない、説明されすぎていない映画のほうが好きで。実生活や人間関係もそうじゃないですか? 「私たちって友達だよね!」とか、いちいちすべてを説明することってあまりないですよね。近年の映画やドラマは説明されすぎているなあという思いもあるので、「日常の描かれ方の余白」はより考えるようになりました。

 やっぱり伝えたいことは設定の説明ではなくて、もっと心に近い部分。だからといって渡された台本のセリフを削るなんてことはできないので(笑)、作品ごとに向き合い方があると思うんですけど。もうちょっと、観客や視聴者を信じていきたいと思っていますね。

岸井ゆきのさん 撮影/有村蓮

──劇中、弟との手話で「だって人はひとりでしょ」と胸の内を明かさないシーンがありました。岸井さん自身は自分と他者との関係性をどう捉え、どんな距離感で人間関係を構築していますか?

 私はケイコに似ていると思います。書いて頭の中を整理することもありますし。なにか選択を迷ったり悩んだりしているときに、人に相談することがあまりなくて、自分の中で解決してから話す感じです。胸の内をさらけ出したくない、話したくない、関係性を作りたくないというわけではないんですけど、苦手というか難しいですね。

 それが親友であっても過程の話がなかなかできなくて、すべて終わってから「いや~こういうことがあったんだよね」って(笑)。でも私、本当に友人関係が変わらなくて、長い付き合いの友達が多いんです。なので私のこの感じに慣れてくれていて、詮索も強要もしてこないし、ずっと仲よく心地よい関係性で。ありがたく思っています。

(C)2022 「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

──劇中でも描かれる、いまやっていることを続けるのか他の道に行くのかは誰しもが思い当たる普遍的なもので、実人生にも通じるものです。岸井さんは気持ちが揺らいだり迷い悩んだりするときに、どう対処していますか?

 ちょっと立ち止まりたいなというときは、私はもう、海外に行きますね。少しでも時間があったらすぐ台湾とかマレーシアとかひとりで行っちゃいます。いろいろな演劇が観たくて、ポンッとロンドンに行ったこともあったなあ。その街をただ歩くみたいなことが好きなんです。友人がマレーシアに農場を持っているので、また年末年始にでも農業をしに行きたいですね。

──将来的には二拠点生活! なんていうのも憧れますか?

 ちょっとねえ、やりたいですよね(笑)。

岸井ゆきのさん 撮影/有村蓮

──サイト名の「フムフムニュース」にちなんで、最近フムフムしたことを教えてください!

 マレーシアに「クイティオ」という米麺があるの知ってます? 私も最近まで知らなかったんですけど、それを他の具材と炒めた「チャークイティオ」が本当においしくて。タイの米麺の「パッタイ」よりコシがあって、うどんのような食べ応えなんです。なので、マレーシアにクイティオというおいしい米麺がある! フムフム!

◇  ◇  ◇

 岸井さんを撮るのは今回が3回目というカメラマンも、マレーシアでチャークイティオを食べたことがあると判明。撮影中、マレーシアのグルメや、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』(岸井さんは3部推し!)の話で盛り上がっていました。

 取材を通して丁寧に言葉を選びながら、天真爛漫な笑顔で場を和ませてくれた岸井さん。これからの作品でもどんな表情を見せてくれるのか、楽しみでなりません。

(取材・文・編集/福アニー、撮影/有村蓮、スタイリスト/Babymix、ヘアメイク/村上綾)

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【Profile】
●岸井ゆきの(きしい・ゆきの)
1992年2月11日生まれ、神奈川県出身。2009年、女優デビュー。その後、映画、舞台、テレビドラマなど幅広く活躍。2017年、『おじいちゃん、死んじゃったって。』(森ガキ侑大監督)で映画初主演を務め、第39回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を、19年『愛がなんだ』(今泉力哉監督)では、第11回TAMA映画祭最優秀新進女優賞ならびに第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その他、近年の主な映画出演作に『空に住む』(20年、青山真治監督)、『ホムンクルス』(21年、清水祟監督)、『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』(21年、松井大悟監督)、『やがて海へと届く』(22年、中川龍太郎監督)、『大河への道』(22年、中西健二監督)、『神は見返りを求める』(22年、吉田恵輔監督)、『犬も食わねどチャーリーは笑う』(22年、市井昌秀監督)などがある。

【Information】
●映画『ケイコ 目を澄ませて』
監督:三宅唱
原案:小笠原恵子『負けないで!』(創出版)
脚本:三宅唱、酒井雅秋
出演:岸井ゆきの、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中原ナナ、足立智充、清水優、丈太郎、安光隆太郎、渡辺真起子、中村優子、中島ひろ子、仙道敦子/三浦友和
公開日:2022年12月16日(金)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ

(C)2022 「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
公式サイト:https://happinet-phantom.com/keiko-movie/
Twitter:https://twitter.com/movie_keiko