町中華を味わうなら、カレーを食べよ!

──町中華のわかりやすい魅力って何でしょうか。

下関さん「町中華っていうと、ラーメンに餃子にチャーハン。あるいは野菜炒めくらいしか頼まない人が結構多いけれど、町中華のカレーってすごくおいしいんですよ」

カレーライス(税込630円) 撮影/渡邉智裕

──先ほどの“三種の神器”にも入っていましたね。町中華のカレーライスは何が違うんですか?

下関さん実は出汁(だし)にラーメンのスープが使われているんです。お蕎麦屋さんのカレーともひと味違って、深い味わいがあるんですよね。だからあえて町中華でカレーを食べてもらいたいです。あとはメニューを見て、どんな料理かわからなかったらあえて頼んでみるのも楽しいと思います。例えば、『広東麺』というメニューはどこにでもあるのに、店によって内容が違うから、意外とどういう料理かわからないんですよね。でもずっとメニューにある料理っていうのは、まぁ、まずくはないと思いますよ(笑)。そういう“このメニューは何が出てくるんだろう”って思って頼んでみるのも町中華の面白さなんです」

──そう言われると、メニュー表を見るのも楽しみになってきました。

下関さん町中華って常連さんを中心に営業しているので、料理の説明とか一切書いてないことが多いんです。お店の名前が付いた丼やメニューがある場合も頼んでみると、新しい発見があると思います

──町中華は何度でもリピートしたくなりますね。

下関さん「神保町にあった『康楽』(現在は閉店)というお店のメニューには、麺類の最初に『味自慢』っていうメニューがあったんですが、料理の説明がまったく書かれていないんですよ。でも常連はどんな料理かみんな知っている。そんなふうに、町中華はグルメではなくエンターテインメントだと思って足を運んでもらうといいかな。

 町中華探検隊ではいろいろな街に行って、それぞれの店に分かれて中華を食べて、その後に『油(あぶら)流し』というイベントをするんです。つまり、喫茶店に行ってみんなでコーヒーを飲みながら、口にたまった油を流す。そこでお店を講評し合うんです。油流しでは、むしろまずい店のほうが盛り上がるんです(笑)。“そんなにまずいのなら行ってみたい!”って

──町中華は地域によってどのような違いがありますか?

下関さん東京だと東西で特色が違いますね。東側は、『中華洋食』って書いてある店がいいですね。昔は、中華も洋食のように海の向こうからやってきたものだったので、舶来品みたいな扱いをされていた時代があったんです。だからお店によっては、中華と洋食を一緒に出していたんです。西側は、再開発が続いて昔ながらの町中華の店が減ってきていると思います。その代わり、新しいタイプの中華料理店や創作中華みたいな店も多い

──ほかにも特色ってありますか?

下関さん「東京の北と南でもまた違うんです。例えば板橋とか練馬とかのチャーハンはちょっとビチョビチョした感じなんです。一時、チャーハンはパラパラがいいっていう信仰がありましたが、お出汁がたっぷりきいたラーメンスープが入っている、ビチャッとしたチャーハンもおいしいんですよ。あとは南も新しい店が多いですが、横浜や川崎が近いので、『サンマーメン』(とろみのついた野菜やお肉のあんかけがかかっている横浜発祥のラーメンのこと)を出している店も多いんですよ」

──町中華のレベルが高い地域はどこでしたか?

下関さん全国各地いろいろと訪れましたが、いちばん実力が高いと思ったのは京都でしたね。京都の町中華はおいしかった。2位は大阪かな。例えば、“ちょっと野菜多めにしてくれない?”とか、“今日はちょっと味薄めにしてよ”とか、お客さんの注文を聞いてくれるんです。またそこから新しいメニューが生まれたり……

──そうなんですね。町中華の激戦区もあったりするんですか?

下関さん僕らが木密地帯という言葉をまねして『中密地帯』と呼んでいるのが、堀切菖蒲園駅(京成電鉄)。ここは町中華の激戦区です。身近な店で探す以外でも、都内のいろいろな場所に行って新しい店に入ってみるという遊び方ができますよね。昼間っから居酒屋に行くのには抵抗があるじゃないですか。でも町中華だと、ラーメンに餃子を頼んで、ついでにビールも一緒に頼んじゃうみたいな。そうすると罪悪感がなく飲めますよね(笑)

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 豊富な街歩きの経験から、町中華の魅力を語ってくれた下関さん。街中で見かける暖簾をくぐってみると、奥深い世界が待っているかもしれません。第2弾インタビューでは、町中華の神髄ともいえるカレーライスやオムライス、カツ丼が登場します!

(取材・文/池守りぜね)

■撮影協力:美華飯店
東京都品川区西大井1-1-1 Jタワー西大井ウエストコートA-103

《PROFILE》
下関マグロ(しものせき・まぐろ) 
1958年、山口県下関市生まれ。桃山学院大学卒業後、出版社勤務を経てフリーライターに。 町中華探検隊の副長として活動中で、共著に『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(角川文庫)、『町中華探検隊がゆく!』(交通新聞社)など。CSテレ朝チャンネル『ぶらぶら町中華』に北尾トロと出演中。