日曜劇場『半沢直樹』(TBS系)など、ビジネスの世界を描くドラマでは、「まさか、そんなことは実際には起こらないでしょ」というような、“企業内でのイジメ”の場面が登場します。
例えば、ある日、出社すると自分のデスクがなくなっているとか……。
これは、そんな“ドラマのような体験”を実際に経験し、そんなうまくいかなくなった出来事が“デトックス(毒出し)”になった……という方の話です。
ある朝、自分のデスクとイスがなくなっていた!
私の知人で、起業家として複数の会社を経営されている方が、かつて一部上場の一流企業で役員をしていた際の実体験です。
その方……仮にEさんとしましょう。
ある日、会社に出社してみると、自分のデスクがなくなっていたそうです。
役職に就いていましたから、前日までは、大きなデスクと、肘かけのついている立派なイスに座って仕事をしていたのに……。
そのデスクとイスを探してみたら、フリーアドレスの一般席に移動されていたそうです。
実はEさん、“専制君主制のような体制”ができあがっている社風の中、間違っていると思えば、それが“君主”の意見であろうとも(相手への尊重や配慮に十分気をつけたうえで)間違いを指摘することもいとわないという姿勢で仕事をしていました。
その結果、“専制君主”に目をつけられて、いわば、「自分に逆らう者はこうなる」という“見せしめ”として、席を奪われたのでした。
自分のデスクがきれいさっぱりなくなっているのを見たEさんは、不思議と悔しさや怒りを感じませんでした。それよりも、半沢直樹のようなビジネス小説やサラリーマンが登場するマンガに出てくる、現実離れした“いじめ”を目の当たりにして、「こんなことって、本当にあるんだ」と、むしろ感心してしまったそうです。
フリーアドレスの一般社員席に移ってからも、Eさんは、それまでと変わらずに仕事を続けました。むしろ「一般社員と会話する機会が増えてよかった」とさえ、思ったとのこと。
Eさんは言っています。
「私へのこの仕打ちによって、むしろ私の周りが動揺したかもしれない。それまでと変わらず私を慕って接してくれる人もいれば、理不尽なことが起きているとわかっていても、自分の出世のために、君主の足の指を舐(な)めるような人もいた」
ビジネスの世界を舞台にしたドラマやマンガで、“どの役員の下につくかで出世できるかどうかが決まる”というようなシチュエーションがあります。それと対比して見れば、Eさんはもう、“ついて行ったら自分の出世はない”という社内では“死に体”の役員。
そのため、それまで、おのれの出世のためだけにEさんについてきていた人たちは、波が引くように去っていき、本当に尊敬と信頼で結ばれていた社員だけが残ったそうです。
「人は、普段はいくらでも着飾ることができる。だから本質を見抜くのはなかなか難しい。しかし、自分がこういう状況になったことで、邪心で自分に近づいている輩(やから)の“膿(うみ)出し”をするのに、とてもいい機会になった」とEさん。
以前に、自己破産をした経験を持つ元社長さんがEさんと同じようなことをおっしゃっているのを伺ったことがあります。
「事業が好調なときは、たくさんの人たちが近づいてくるけれど、自己破産した途端に手のひらを返すように去っていく。そして、それでも残ってくれたわずかな人が、本当の友だった」
うまくいっているときにはたくさんの人が“味方のフリ”をして寄ってきます。でも、本当の味方は、うまくいかなくなったときに、初めてわかるのですね。
これが、うまくいかなくなったときの“ひとつ目のデトックス”です。