走り続けてきた30代以降、さらに歩み続けて見えてきたもの

 滝藤さん自身、仕事が舞い込むようになってきた30代前半から、来る仕事はすべて受ける勢いでがむしゃらに走り続けてきた。しかし、2020年に入ったころから心身のバランスを崩し始め、涙が止まらなくなったり、家を飛び出したりしたこともあったという。

「心身のバランスが崩れるも、スケジュールは埋まっているので、走り続けていました。緊急事態宣言が出た2か月くらいは、半ば強制的に休みになり、いろいろなことを考えるいい時間になりましたね。

 多くのオファーをいただくようになって、どれも大切にしてきたつもりだけど、どこかでこなしているような気持ちになってしまっていたこともあると思うんです。だから今は、1本1本作品に向き合って丁寧に取り組むようにしています。この『ひみつのなっちゃん。』も、監督と細かくセッションして作り上げることができました。

 きっとそのほうが作品を好きになれると思うんです。現場は穏やかな雰囲気で、時間も余裕があり、郡上もとてもいいところだったので最高の撮影でした」

心身のバランスを崩した際も、決して立ち止まらなかったと話す 撮影/山田智絵
観葉植物を愛でているそうだが、まだまだ私たちの知らないひみつの顔がありそうだ 撮影/山田智絵

 2021年9月には、滝藤さんの1年間の着こなしを記録した『服と賢一 滝藤賢一の「私服」着こなし218』(主婦と生活社)を出版。本書の中の滝藤さんはとても自然体で、ファッションを自由に楽しみ、家族と過ごす休日の様子も垣間見せている。

「オファーが来たときは、“そんな本、誰が買うのかしら?”と思いましたが、僕の1年間のアルバムみたいなものなので、楽しくやりました。でも、持っている服の半分も着ていないから、まだまだ物足りない。それに、好みも古着やクラシックなテイストに変化してきているので、今撮ると全然違うものになると思います」

 自分のすべてを芝居にささげて苦しかった20代、仕事が増え始め、あらゆる作品に出演して多忙を極めた30代を経て、現在46歳の滝藤さんは、穏やかでありたいと考えている。

「現場は時間がなくて、ピリピリしていることも多いけど、そういうときこそ穏やかでいたいですよね。“思いやりを持って言葉を掛け合おうぜ”って。家族との時間も大事にしたいけど、長男が中学生になって部活が忙しくなり、家族みんなで出かけられないんです(笑)」

 若いころの自分に言葉をかけられるとしたら、「めっちゃいいこといっぱいあるよ」と伝えたいという滝藤さん。

「若いころは芝居のことばかり。お金もないのに、踊りや立ち回りの稽古を受けていました。何やってもうまくいかなかったですね。腐りまくってました。でも、人生は悪いときばかりじゃないと思う。トントンなんです。今はめちゃくちゃ楽しいし、毎日が充実している。この『ひみつのなっちゃん。』という映画に出合えたことも、本当に幸せだと思います

滝藤賢一さん 撮影/山田智絵
役と同様に、服装にもこだわりを持つ滝藤さん 撮影/山田智絵

(取材・文/吉川明子、編集/本間美帆)


【PROFILE】

滝藤賢一(たきとう・けんいち) 1976年生まれ、愛知県出身。1998年から舞台を中心に活動後、『クライマーズ・ハイ』(’08)で注目を浴び、以降、TV・映画・CMと幅広く活躍。近年の出演作に、映画『はなちゃんのみそ汁』(’15)『64 -ロクヨン-』(’16)、『関ヶ原』(’17)、『狐狼の血』(’18)。テレビドラマでは、TBS系「半沢直樹」(’13)、NHK連続テレビ小説『半分、青い』(’18)、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』(’20)、日本テレビ系『探偵が早すぎる』(’18、’22)など多数。主演ドラマ『グレースの履歴』(全8回 NHKBSプレミアム BS4K)が3月19日(日)22時から放送予定。

《映画情報》

『ひみつのなっちゃん。』

(C)2023「ひみつのなっちゃん。」製作委員会

□詳細:

1月13日(金)新宿ピカデリー他、全国公開
1月6日(金)愛知・岐阜1月6日先行公開

キャスト:滝藤賢一
渡部 秀、前野朋哉、カンニング竹山
豊本明長、本多 力、岩永洋昭、永田 薫、市ノ瀬アオ(821)、 アンジェリカ
生稲晃子、菅原大吉 、本田博太郎
松原智恵子

脚本・監督:田中和次朗
主題歌:『ないしょダンス。』渋谷すばる

製作:東映ビデオ 丸壱動画 TOKYO MX 岐阜新聞映画部
ロケ協力:岐阜県郡上市
ドラァグクイーン監修:エスムラルダ
配給:ラビットハウス 丸壱動画
(C)2023「ひみつのなっちゃん。」製作委員会

映画公式サイト:https://himitsuno-nacchan.com/
公式Twitter:@HimitsuNacchan