前川が推すのは「花の時・愛の時」「おいしい水」。思い入れが深い理由は?

 次に、Spotifyのランキング表から、もっと上位になってほしい曲を挙げてもらった。

16位の『花の時・愛の時』ですね。これは、ソロになってから初めてのシングル(1987年)で、当初はメナード化粧品のCMソングとしてサビの部分だけ作られていたんです。それが、とても洒落(しゃれ)た感じに仕上がったので、最初と最後の部分が作られて、ひとつの曲にしてもらったんですが、オペラ歌手の方が歌ってもよさそうな歌で、難しいんですよ。あまりにも自分のイメージとかけ離れているものをなんとか歌おうとするから、つい力が入ってしまう。でも、これも『恋唄』と同様に、カラオケで歌われる中で広がった気がしますね(インタビュー第2弾参照)。今後このランキングでも、もっと上位に来てほしいけど、必ずしもそうならない。だから、ヒットの世界は面白いんですよ

「花の時・愛の時」は、当時オリコン最高74位ながら、18週間もTOP100入りしたロングヒット作。大きなヒットではないものの、林部智史や青木隆治などカラオケ高得点系で評判の歌手がこぞってカバーしていることから、いかにカラオケ上級者に愛されてきたかがわかる。さらに、もっと聴いてもらいたい曲を挙げてもらった。

63位の『おいしい水』('04年)も上位になってほしいですね。ソロとしては阿久悠先生に初めてお願いした、大好きな曲なんです。まず、都志見隆さんのメロディーがあって、NHKからの帰り道に渋谷のスクランブル交差点で、都志見さんが ♪ラララ~ で歌っているデモテープを聴いているとき、汗をかいたサラリーマンの方たちが上着を脱いで帰宅するところだったんです。それを見て阿久先生に“こういう歌を作ってほしい”とお願いしたら、引き受けてくださって。

 歌詞の ♪十字路の迷い子たちよ それはおとな~ という部分は、依頼した僕は背景がわかるんだけど、一般の方にはガツンとこないかもしれない。でも、人々が“おいしい水”という癒しがあるところにたどり着く、温かい視点を書いてくださった。そういった人たちを応援したくて書いてもらった歌です

「おいしい水」のジャケット写真は、前川の渋さが醸(かも)し出されていてカッコいい!

 前川清の作品は、たとえあまりヒットしていないシングルでも、シングルのカップリング曲やアルバムの収録曲でも、丁寧に作られた作品が本当に多いことがわかる。しかも、本人に尋ねてみたら、それぞれの歌に対する思い入れの強さにも驚かされる。

「僕自身、これまで歌ってきたものがいっぱいあるので、実は今度の新曲(『昭和から』)で、新しい曲を歌うのはひと区切りにしようかと考えています。新曲を作っても、そこまで多くの人に聴いてもらえない。だったら、あと何年歌えるかわからないけれど、アルバムなどに入っている曲を歌い直すということをやっていきたいです。昔に作った曲というのは、その時代の背景もあって、今から同じようにはできないんですよ。作家の方も亡くなられましたからね」