ヘアカットにやってくるお客さんのさまざまな人生模様
──話題の「変身動画」を長らくやっていますが、始めたのはどういう理由からですか?
「お師匠さんと働いていたときに、一緒に作り始めました。当時は今よりも若いお客さんが多かったし、“一緒に楽しいことをやろうよ”といったノリで、とにかくお客さんを楽しませたいというのが一番にありました。それと、もうひとつは自分の思い出を残すためです」
──“自分の思い出”というのはどういうことですか?
「単純に“当時は痩せてたなぁ”とか見直すのもあるんですけど、“昔はこんな髪形が流行(はや)ってたんだ”というような、アルバム代わりになっていますね。だから、PRではないんです。この動画を見てお客さんが来てくれたり、フォロワー数が増えたりするのはありがたいんですけど、これで一発もうけようという気持ちはさらさらないです。
動画の編集作業は、昔から自分でやっていて、ときには飲みながらなんてことも。クオリティもそこそこですし。でも最近は(Instagram機能の)リールでサムネイルの大きさを意識してしっかり編集するようになったので、以前より少しよくなったと思います(笑)」
──変身動画を見ると、お客さん一人ひとりの髪を切ろうと思った背景が詳細に書かれていますが、大月さんとお客さんとの会話が元になっているのでしょうか?
「そうです。美容室に来るのが初めてというお客さんが多く、みなさん緊張されているので、ガチガチのまま終わるより、フランクに話したほうが、お客さんも楽しく帰ってくれるじゃないですか。だから、とにかくお客さんのことを聞きまくったり、“マジっすか!”と、ときにはカットしている手を止めてお客さんとしゃべりますね」
──印象に残っているエピソードってありますか?
「板金の仕事をしているお父さんのエピソードですね。“普段は洋服も身なりも汚いから、せめて娘の成人式ぐらいはキレイな格好で迎えてやりたい”と来店されて、その話を聞いたとき、“なんていいお父さんなんだろう”と思いました。
この動画の編集を、居酒屋のカウンターで行っていたんですけど、そのときの会話を思い出してボロボロ泣いちゃって。居酒屋の店員さんにもめちゃくちゃ心配されました」
──動画を見て、来店される方は今も多いですか。
「今では国内はもちろん海外からもお客さんにご来店いただき、反響の大きさを実感しています。先月も、一度来店されたお客さんから、“今度、結婚式を行うので、スタイリストとして来ていただけませんか”と依頼を受け、石川県の能登半島に1日出張してきました。由緒あるお寺の住職の息子さんで、奥さんにも非常に喜んでいただけました。
昔は、自信がない方が動画を見て、“こんなにカッコよくなれるんだ。自分もそうなりたい”と、来店されることが多かったんですが、最近は奥さんや娘さんが動画を見て、“うちの旦那やお父さんをこのぐらいカッコよくしてほしい”と、ご連絡をいただくことが増えてきましたね。
どちらにしても、髪を切ることで自分の意識してこなかった隠れた魅力に気づくと、表情が一気に変わり、話す言葉にも自信がうかがえるようになります。変身動画をやるようになって、きっかけさえあれば、人は誰でも変われるんだということに改めて気がつきました」